○2012年の収穫(順位なし)。


◇小川剛生著「武士はなぜ歌を詠むか」(角川書店
室町末期まで、和歌は人心掌握の術であり、外交のチャンネルでもあった。つまり武士は政治活動の一環して和歌を詠んだのだ。
本書は鎌倉から室町末期までを眺め、和歌そのものよりも歌壇という詠まれた現場に着目、政界覇権闘争における和歌が担った効果をあぶりだす試み。
冷泉家は歌の家。けど、歌道における彼らの権威は当初から盤石ではなかった。冷泉家藤原俊成、家定を輩出した御子左家の庶子筋。子に恵まれたということもあるだろうけど、武家が歌を詠む意義を忘れなかった点も大きい。簡単に言えば冷泉家はめちゃくちゃ運が良かった。戦国の終焉、秀吉のような下克上体現者は歌に疎かったはず。豊臣の治世が続けば、冷泉家も今日とは別の運命を辿ったかもしれない。
同じ著者の「足利義満」(中公新書)も是非読んでみたい。


武士はなぜ歌を詠むか  鎌倉将軍から戦国大名まで (角川叢書)武士はなぜ歌を詠むか 鎌倉将軍から戦国大名まで (角川叢書)
小川 剛生

角川学芸出版 2008-07-11
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奥泉光著「虫樹音楽集」(集英社)
奥泉さんはお気に入りの作家。いくつも読んでいるがこれが一番好きかも。人間が虫になる的なカフカ的な着想、思念を複数の語り手によって語り編み上げる手管、秀逸すぎる。物語を駆動するエンジンはかなり馬力で、ぐいぐい読ませる。かといって、小説内部が醸す豊かさ、滋味いっぱいな多幸感感は全く損なわれていない。
映画化を妄想。イモナベ、菊地成孔で畝木が大谷能生というのが一案。
もう一案は、イモナベ、奥泉さんで畝木がいとうせいこう。ただしイモナベは物凄い巨根の持ち主であるから、CG処理でそれらしく。。。


虫樹音楽集虫樹音楽集
奥泉 光

集英社 2012-11-05
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◇槙田雄司著「一億総ツッコミ時代」 (星海社/星海社新書)
ボケは嗤われる、格好わるいものという「常識」を払拭する、ボケ礼賛の書。
ボケは語るのでなく、語られる対象。なにかに熱中する様こそボケ。故にボケが隙だらけなのは当然。ボケのイメージが根底からひっくり返される。そう、ボケとは英雄の異名なのだ。
なるほど、ボクら無意識にボケを忌避していたのかもしれない。何かを好きだと表明すること、何かに熱中することを、心のどこかで怖がっていたっぽい。ボケを見かけると辛く当たったり、嗤ったりするのも実は嫉妬していたのかもしれない、ボケられる強さに。
ボケよ、ごめん。オマエの全然見えてなかったわ。ホントすまない。オマエこそ英雄。
著者の槙田雄司氏、実はマキタスポーツの芸名で活躍するお笑い芸人。もっかブレーク街道まっしぐらのオジサン。所属事務所はオフィス北野。
「才能が渋滞している」!
事務所の先輩、水道橋博士はかつてのマキタの埋もれっぷりをそう言ったらしい。確かに器用貧乏の危なかっしさがある。マキタ当人も方向性で相当悩んだはず。悩み過ぎて禿げた。で、ハゲたすえに彼が至った境地、それは器用貧乏っていう弱点を己の「ボケ」として引き受けるってことだ。というか、今の快進撃、マキタ自身が「ボケ」側に一歩踏み出したことから始まったとボクは確信した。
さぁ、みんなっ!時代は英雄を待望してる。どんどんボケろ!夢中になれ!小さくまとまるな!隙だらけで走り回れ!ボケてボケてボケまくれ!そして俺様が、思いっきりツッ込んでやるっ!


一億総ツッコミ時代 (星海社新書)一億総ツッコミ時代 (星海社新書)
槙田 雄司

講談社 2012-09-26
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◇桜井英治著「贈与の歴史学 儀礼と経済のあいだ」(中央公論新社/中公新書
中元や歳暮、半返し、義理チョコ、facebookの「いいね!」など、貰らちゃうとお返ししなきゃ的なプレッシャーのしかかって、贈り贈られの挨拶ってメンドクサイなと思う。
本書を読んで、不義理は不義理でよくないしなぁと悶々としちゃうお返ししなきゃの意識って、中世の贈与経済、それを下支えした中世気分の名残りなのかと膝を打った。
逆に言えば、商品経済が発達し日本津々浦々まで広まったが、中世的な贈与観、貰った場合それなりのお返しを的気持が平成のボクらにも受け継がれているってワケだ。むろん、気持的にもすっかり廃れた風習もあるだろう。
歴史という流れのなかで継承されたものと頓挫したものあるのだと今更ながら痛感した。昔は今と直線的に繋がるのでなく、点線によって結ばれる。線が明滅するその刹那の闇に、忘れ去られた古えの心もあるのだ。


贈与の歴史学  儀礼と経済のあいだ (中公新書)贈与の歴史学 儀礼と経済のあいだ (中公新書)
桜井 英治

中央公論新社 2011-11-24
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島田裕巳著「映画は父を殺すためにある」(筑摩書房/ちくま文庫)
魔女の宅急便」見直しすキッカケがこの本。島田さんが宮崎駿作品の主人公が乗り越えるべき障壁の曖昧さを指摘していたから。
原作は少女から大人へと自立する魔女キキを描いてるっぽい。けど駿による映画版は大人になるのでなく、魔女になることがゴール。キキは大人の魔女になるのでなく、少女から魔女になるのだ。
つまり魔女は、子どもが大人になるという成長枠組みを超越した存在ということ。努力して成るのでなく自分のなかのそれに気づくことが、一人前の魔女になることなんだ。
キキの魔女修行、なんか禅の公案みたいだなと思った。と同時に、紆余曲折あった末、明確な「自分」を選び取る筋立ては宮崎アニメの常道じゃないか!と気づいた。逆にいうと宮崎アニメにおける冒険とか旅って、余計なもの削ぎ落とし、確固たるバキバキの自分、己に収斂する道程なんだ。
まあ簡単にいうと、子供の頃の性格や得手不得手はそのまま歳を重ねても変わらんし、変わらんでどんどんその人らしくなるのが結構!「社会人」とか「大人」なんて、糞くらえだっ!ってのが駿流の人間観なのかもしれない。


映画は父を殺すためにある: 通過儀礼という見方 (ちくま文庫)映画は父を殺すためにある: 通過儀礼という見方 (ちくま文庫)
島田 裕巳

筑摩書房 2012-05-09
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元木泰雄著「河内源氏 - 頼朝を生んだ武士本流」(中央公論新社/中公新書)
大河ドラマ「清盛」を観るガイドとして買った本のひとつ。これがダントツ面白く、夢中で読んだ。
さて、大河の清盛は不人気だった模様。思うに、武士政権の礎を築いた清盛イメージと双六という博打遊びが食い合わせが悪かった。後白河は博打でイイ。サイコロは後白河的人生感を象徴する打ってつけのアイテムだ。けど清盛には相応しくない。サイコロに任せの運命からの解放こそ清盛が目指した武士の世なのだから。
ナレーションが頼朝というのもお茶の間の戸惑わせた原因と思う。やはり語り手は建礼門院が望ましかったと思う。
本の感想はこのあたり


河内源氏 - 頼朝を生んだ武士本流 (中公新書)河内源氏 - 頼朝を生んだ武士本流 (中公新書)
元木 泰雄

中央公論新社 2011-09-22
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