○ 内なる投手 - 江夏豊著「エースの資格」感想。
(PHP新書)

オレは子供のときのイメージを大切にしている。自分が子供のときってどんな人がカッコよかったのかなって考えているわけですよ。そのカッコよかった人を実践したい。今の大人になった自分で。

上に引いたのはNumber誌(783号)のインタヴューで語った本田圭佑の言。江夏の「エースの資格」を読み出して、真っ先に思い出したのが、本田のその言葉だった。
江夏と本田。野球とサッカー。パンチとパツキン。分野は違うけど、ふたりは役割に向き合う姿勢が瓜二つに思えるから不思議だ。
江夏がエースの資格と口にするとき、それは同時にエースの責任の意味も含んでいる。これは想像だが、エースの責任は、江夏のなかにで具現化し、完全無欠なエース像となったと思う。そして現役時代の江夏は、そいつを目標に日々研鑽を積んだのだ。
南海時代、ノムさんの説得で抑えに回ることを決意したというエピソード。江夏が幕末維新志士好きと小耳に挟んだノムさん、「江夏よ、これからは投手も分業制の時代だ。お前がそのサキガケとなって日本球界で革命起こそうぜ!」みたいな感じで、抑えを打診したというアレ。たしかにノムさんの殺し文句も巧みだけど、このとき江夏が先発完投こそ真のエースだ!的変なプライドに固まっていたら、「優勝請け負い人、江夏」は生まれてなかっただろう。
先発への執着を捨ること。江夏はそれまでの自分に見切りをつけた。と同時に新たな役割への対応するため、トレーニングを開始した。要は抑えへの転向決断が、江夏のなかの理想の投手像を一層リアリスティックに深化させたとボクは見ている。
江夏豊。高い理想を掲げ、自らの野球人生を切り拓いた漢。その意味で彼はまさに日本球界の革命児だ。本書「エースの資格」は、そうした野球開拓者・江夏が説く投手論だ。
偉大な選手は、往々にして引退後の言動が説教臭くながちだ。けど江夏にはそうしたクサさは微塵もない。それは、たぶん現役を退いた今でも彼が完全無欠なエース像を、心に宿しているからではないか。


エースの資格 (PHP新書)
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