○数字とプレゼン ー 小野俊哉「プロ野球解説者の嘘」感想。


プロ野球シーズン真っ盛り。お茶の間でテレビ観戦してると、解説のプロ野球OB解説者は、往々に自身の経験則をべらべら捲し立てている。連中は野球は上手かったかもしれないが喋りはスブの素人だ。多少弁が立つといっても解説は池上彰の域ではない。
打った瞬間分かるホームランや150キロの豪速球なんてもんはサルでも凄さが分かるから解説などイラナイ。解説すべきは僕らお茶の間観戦者が見落としがちな地味だけど凄いプレーや当意即妙な判断、あるいはある局面における選手の心理状況などだ。それらを拾いあげ咀嚼し伝え、「なるほどそいつは凄げぇ!」と唸らせることが解説者の役目ではないだろうか。
けれど現段階でそうではない。現実は主観的意見の垂れ流しだ。そもそもこの体たらくは今に始まったことではない。先輩を敬う部活精神がその元凶かもしれない。そして現場の先輩信仰がマスメディアに伝播し、野球実況においても「傾聴に値する」意見と誤解されたことが今日的経験則解説隆盛につながったとみるべきか。逆にいえば、江本や福本などの飛び道具解説は、タレントとしての居直りで内容よりも愛嬌を売り物にするという突然変異だと云えなくもない。察するに、先輩解説者がアホやから俺はこの路線だというのがエモやんの胸の内ではないか。
小野俊哉「プロ野球解説者の嘘」は、OB解説によって流布し既に我々野球ファンのあいだでも「テッパン」あるいは「定石」とされる戦略戦術を数字データ的に検証してみようという試みだ。

•第一章 首位打者本塁打王がいた横浜が、なぜ最下位だったのか
•第二章 野村克也の説「野球パッケージ投手が7割」は真実か
•第三章 王貞治「868本塁打」を科学する
•第四章 イチローが活躍しているのにマリナーズはなせ弱いのか
•第五章 4割バッターは誕生するか
•第六章 ヤクルトの外国人選手はなぜ活躍するのか
•第七章 阪神JFKは「正しかった」のか
•第八章 犠打と強打はどちらが点に結びつくのか

といった塩梅で、目次をみただけでもオモシロさの片鱗が分かるはず。本書の肝は小野がデータで洗い出した「勝てるチーム」像のヒネリのない真っ当さだ。この結果はもはや経験則が当てにならないとかそう云う問題じゃない。さしずめテレビ局側の意向というか空気よみつつ、OB解説者は先方は望む「勝てるチーム」基準で解説してるじゃないかと疑わざるを得ないのだ。別の言い方をすれば、実際のチームを采配するなかで、1番が打って、2番がつないで、3、4番がホームにかえす的打線形成と維持が如何に困難かということをマザマザと示している。
実をいうと小野がデータからはじきだしたのはオーソドックな「勝てる」チーム像ばかりではない。日本プロ野球が進化する方向を彼は洗いだしている。詳しくは「阪神JFKは「正しかった」か」の章を読むべし。岡田彰布の監督としてのクリエイティブな才能、その片鱗がうかがい知れる。超オススメ!


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