岡田彰布、あるいは華あるマイナス思考 ー 岡田彰布「動くが負け - 0勝144敗から考える監督論」感想
(幻冬舎 ISBN:9784344981782)


「岡田監督」と云えば世間的には、アノ「岡ちゃん」こと岡田武史サッカー日本代表前監督を指すのかもしれない。けどボク個人的には岡田彰布オリックスバファローズ現監督のアノ肉詰め干し柿みたな顔を思い浮かべてしまう。
もっか売り出し中の和製大砲T−岡田を育てた手腕や、試合を捨てない粘りの投手リレーなど采配の妙が面白い。
西武やソフトバンク、ロッテなどと違って選手層がかなり薄いチームにも関わらず、岡田オリックスは健闘している。
本書は、そんな岡田監督の監督心得を開陳したもの。阪神時代と違い戦力的にまだ発展途上であるオリックスの監督という立場が色濃く反映された監督論という印象だ。「育てながら勝つ」という岡田の言葉は、まさにチーム状況を考慮した戦略の提示と云えるだろう。
「動くが、負け」。禅問答じみたタイトルだが、監督業の肝は「準備」にあるということ。
岡田のいう準備とは、試合当日の朝、スポーツ各紙で相手スタメン情報や球場の天候状況の把握などの事前準備のことだけでなく、試合中も最悪の事態を想定し備えるゲームの流れを読みつつの「準備」も含まれる。というか岡田にしてみれば、試合中の準備こそが本質で、ゲーム前のそれらは付随的なものなのかもしれない。
「最悪が想定できれば、相手はかってに負ける。」
巻かれた帯のコピーの文言は、挑発的であるが、岡田の監督スタイルの核心を上手くとらえている。
シーズン144試合全部負けを想定し、そこから逆算で勝ちを積み上げていくという「マイナス思考」。アノ岡田がこんな能書きを垂れるとはちょっと衝撃だ。彼は早大からドラフト一位指名で阪神入りでずっと1軍選手だった。ふつうにプレーしてれば結果がついてくるエリート選手だった。それが勝ちを逆算で積み上げるって!やっぱ、岡田が指導者としてオリックス二軍監督という場所から出発できたことは、今思えばラッキーだったかもしれない。
同じスタイル、つまり「マイナス思考」監督としてふと浮かぶのは、中日落合と楽天前監督の野村ぐらいか。けど、ノムさんみたいな陰気さはなくて、岡田はどこか陽気。また落合采配が醸し出すプロフェッショナルな硬質のマイナス思考とも岡田のそれは違う気がする(144試合中50試合は負けるんだというお気楽さか?)。
ま、最悪を想定するという意味では一緒なのかもしれんが。そういった意味で、岡田と真反対の監督実践者は読売の原辰徳監督だろう。彼は「よく動く」し。。。。
ペナントレースもいよいよ終盤。パリーグは西武がアタマひとつリードといった状況か。ボクは優勝争いよりも、順位云々でなくオリックスの日々総力戦的な踏ん張りに注目している。


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岡田といえば、うどんつゆ「どんでん」CM。アホみたない顔な阪神のおっさんだ思っていたら、いつのまにやら名監督の風格が。。。変わるもんだなー。