○バス、乗り降りの人生 


十年くらい前のちょうど今時分、NHK教育で趣味講座のPR番組があった。
いやPR番組と言い切るにはちょっとアレで、まぁそれ自体がよく出来たドキュメンタリーだった。
この番組、一般の人たちが一台のバスに乗り、陶芸や絵手紙、蕎麦打ちなどの習い事教室を順繰りに回るという趣向。乗客は体験をとおしてやってみたい趣味を見つけるというものだった。
有り体に言えば、乗客と習い事の仲を取りもつバスツアーという寸法。乗客は、すべての習い事を体験するまでもなく、コレやってみたい!思ったで時点でバスを降りて良いという仕組みだった。
打ち込む趣味をみつけた喜びなのか、下車する人々のウキウキした様子が印象的だった。逆にバスに乗り続けているということは未だシックリいく趣味に出会えてないこと意味するわけで、実際広々したバスの車内、老齢の男性が不安気に座っている姿を今もおぼえている。
このバスツアーはまるで人生そのものでないかと、当時ボクは思った。
バスを降りることは、ここで降りるという決断だ。それは自分の人生に対する見極めというか軽い絶望を伴うのかもしれんとボクは思った。
その意味でバスに乗り続けるという選択は、己の可能性をまだ信じている証といえるだろう。若い頃はそれでいいが、いい大人が己の才覚に己惚れているのは、相当悲痛だなと思った。
今日、みうらじゅんの対談集「正論」をパラパラと眺めていて、このバスのことを久々に思い出した。
バスをいち早く降りた人。
みうらじゅんのことをボクはそんなふうに見ていた。
けど、この対談を読んでみると、「降りた」感があまりしないのにちょっとビビった。いい大人が「乗り続ける」ことは、イタいことだとボクは思っていたが、みうらじゅんはそれを愚直にやっていることに唖然とした。口あんぐりを通りこし、むしろ感動した。
バスを「降りない」という決断。それがおのれの人生に対するサブカルの覚悟なのかもしれない。


みうらじゅん対談集 正論。
みうらじゅん対談集 正論。
コアマガジン 2009-02-23
売り上げランキング : 71911

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

関連商品
脳内天国 新装版
郷土LOVE
ぜったい好きになってやる! (ちくま文庫)
真理先生
映像夜間中学講義録 イエスタディ・ネヴァー・ノウズ(DVD付)