○ヤン・イクチュン監督・脚本・主演「息もできない」


話題の韓国映画「息もできない」を観た。
朝鮮戦争とは、大国のにらみ合いを背景としたある種の代理抗争で、半島の民族にとっては同朋同士が殺し合うという最悪の事態だった。
家庭内暴力という本作のテーマは、韓国の「北」に対する愛憎を彷彿させるが、そんな今日的な状況を熱唱するのでなく、チンピラのどん詰まりの日常に圧縮してみせた。たぶん、サンフンとは、韓国のそのものなのだ。
本作は、借金の取立稼業のチンピラと女子高生を引き寄せる数奇な運命のハナシ。「クソ野郎っ!」が口癖で、世間に敵意むき出して生きているチンピラ、サンフンの日常を臨場感溢れるカメラワークはインパクト大。けれど、この臨場感はそれはある種フェイクで、ヤンはこのチンピラの人生を一貫して冷めた視点で眺めている。
女子高生ヨニの(キム・コッピ)と彼女の弟、ヨンジェ(イ・ファン)はお互いは別個にサンフンと関わりをもつが、姉弟は世界の二つの存在を意味している。ヨニは弱く、虐げられた存在で、弟は弱い自分を嫌悪し、強くさ志向する存在。
つまり、サンフンとって、ヨニは母や妹の化身であり、弟、ヨンジェは母と妹を殺したDV親父の影なのだ。
チョン・マンシク(サラ金業者、サンフンの友人)、ユン・スンフン(サンフンの手下)など、脇配役も抜群で小憎らしいほどだ。本作が北野武映画と比較云々されるのは、そうしたキャスティグの妙や「暴力」とか「チンピラ」といった素材的共通点もあるだろうが、主人公に対する無慈悲な視線のあり方がやはりデカいと思う。結果、北野作品にはない妙な「もっさり感」が際立たせることに成功している。
この作品だけで即断するのもあれだが、おそらくこの「もっさり感」こそ、映画監督ヤン・イクチュン風味なのだ。


・配給元ビターズエンド「息もできない」紹介ページ
http://www.bitters.co.jp/ikimodekinai/