○達川の痛恨、藤田の叱咤  ー 赤坂英一「キャッチャーという人生」感想 その2
(講談社 ISBN:9784062157353)


91年。広島カープは西武と日本一をかけて戦った。86年の同じ西武とのシリーズ、日本一まであと一歩のところで敗れた達川にとってリベンジを果たす、まさに千載一遇のチャンスだった。
「相手は達川だよ。全回のシリーズで経験を積んでいるからな。今度はどういう手に出てくるか。十分警戒してかからんと」
これがシリーズ前の西武監督・森の言。むろん、このコメントは額面通りの達川リスペクトで言ってるわけでない。球界きっての策謀コンピューター・森なりの意図があった。森は、ある意味念をこめて番記者たちに「対広島戦の要諦」をつぶやいたのだ。
「相手は達川だ」。森のこの発言、広島番記者連中から達川本人の耳に入ることを計算づくのものだった。
実は、西武はカープの配球を収拾、そのデータから達川のクセを見抜いていたという。だから、当時の森の危惧は、達川がトリッキーなに奔ることだった。
ゆえに森は、「全回のシリーズの経験を積んでいる」とベテランキャッチャー達川の「老かいさ」を持ち上げたのだ。もちろん達川も森が海千山千の狸であることは重々知っている。しかし、やはり森が一枚上手だった。森は、「相手は達川」とマスコミを通じて言うことで、達川を挑発した。達川の負けず嫌いの性格を見抜いての発言だった。
案の定達川は、森の狙い通り「弱者の兵法」的トリッキーなインサイドワークは採らず、「経験を積ん」だ己のスタイルで挑んだ。挑んでしまったと言うべきか。
森は、心理戦を制した。これで西武ベンチは達川のリードを手にとるように把握していた。しかも配球傾向筒抜けだと達川に悟られぬよう細心の注意でのぞみ、要所要所でそれを巧く利用した。
広島は先に王手をかけながら、またも西武に日本一をさらわれる結果と終わった。達川は再び苦杯をなめた。現役に未練が残った。

「村田、キャッチャーの仕事はな、チームを勝たせることなんだ。勝つことだけ考えてくれ。配球をうまいこと組み立てようとか。いいバッターをきれいに打ち取ってやろうとだとか、そんなカッコいいリードは要らない。こういうときにはこの球だと、信念を持って。チームを勝たせてほしいだ」
巨人の村田真一が当時監督の藤田から言われた言葉。つまり村田はカッコいい配球とか考えていたということなのか。ま、まっとうなキャッチャー鉄則を言っているようだが、なかなか含蓄がある言葉だ。
藤田巨人の第二期といえば、世の中的に野村ヤクルトの古田に注目が集まっている頃だ。同じポジショ同士を意識するなというのがムリな注文だ。しかし、古田の後ろにID野村がいるとなると。。。様相は違ってくるかもしれない。「カッコいいリード」は、むしろ野村のおもうツボなのだ。
村田よ、古田の評判なんか気にするな。カッコいいリードなんてクソだ。つーか、一流のキャッチャーなら野村の幻影とでなく、野村と戦え!
藤田が村田を叱咤した言葉。そのウラには、そんな意図があったかもしれない。


キャッチャーという人生
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