○果てしないチューンナップ魂−山本昌「133キロ怪速球」感想
(ベースボールマガジン社 ISBN:9784583101699)


一読、「冷たい」印象。
著者は中日ドラゴンズ山本昌(44歳)。去年通算200勝を達成するなど数々の最年長記録を塗り替え中のリーグ屈指の左腕。

「133キロの怪速球」は、熱っぽいアノ山本昌の投球スタイルから予想外のクールな文体が面白い。
内容的には、図体ばかりで大きい130キロくらいの球速しかないヤカラが200勝の勝ち星を稼ぐ大投手に大化けした理由を、山本昌自ら語るもの。
昌は、「正しい努力」こそオレがここまでやれた理由と再三語る。「正しい努力」というのは、ちょっとニュアンスがむずかしい。ぼくなりのざっくりした解釈をいうと、「適切な課題と克服のためのトレーニング」を指すと思う。
「努力の積み重ね」という表現があるが、昌は、努力を課題克服のためのトレーニングのコンビネーションと考えているふしがある。つまり彼にとって「努力の積み重ね」とは、課題設定→トレーニングのコンビネーション→課題克服→また別の課題設定→トレーニングのコンビネーション→。。。。といったふうな具体的練習スタイルとしてあるのだと思う。
「おまえならやれる」
進学か中日入団かで悩むおり、昌は日大藤沢の監督から「おまえならプロでやれる」と背中を押されたと振り返る。たぶん適切な課題をみつけ、それを克服するという習慣は高校時代からすでにあったのだろう。藤沢の監督は、そうした「正しい努力」家たる山本昌にプロでやっていく素質を見たのではないか。
「正しい努力」。昌に言わせれば、それそこプロで生きるためのコツなのだ。趣味のラジコンについて多く語ってないのでアレだが、おそらくラジコン道楽はメカニカルなイメージや段取りを昌の資質に注入したのだと思う。たぶん昌は、自分を「野球する機械」というイメージするようになったのではないか?冷やっこい文体はそのためでないか?
一流のそれでなく、無名の野手が遊びで投げたやつを真似て習得したというスクリューボールのハナシや親指のマメを噛んでたてカーブのカカリをよくするハナシも、なんだか「努力」と呼ぶにはショボい感じもする。けど、身の丈の課題を設定し、それを確実に克服する作業がドラマチックである必要ない。それが昌のいう「正しい努力」なのだ。
別の視点でいうと、結局昌のいう「正しい努力」とは、基本上手いヤツを真似ることだ。で、昌は「真似る」にしても、戦略的に出来そうで効果的なこと「真似る」のだ。カッコイイかどうかは二の次、昌は真似ることが己にプラスかどうか計算し判断する。そして真似る決めると一心不乱にトレーニングを開始する。それが山本昌流。
今シーズン二軍で調整中の山本昌だが、一緒に試合や練習する連中の動作を眺め、盗めるモノはないかと虎視眈々している昌の姿がぼくにはありありと見える。
「野球する機械」・山本昌のチューンナップは未だ終わっていない。


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