○天道信仰と女の子たちのミューズ − 神田千里「島原の乱」(中公新書)感想。


◇櫻井有吉アブナイ夜会だったか、加藤ミリヤが「誰かのミューズでありたい」という意味のことを喋っていた。
カメラも回すディレクターに「ミューズって何ですか?」と問われ、「女神ってことですね」とミリヤ。「じゃ、最初っから女神って言えばいいのに」って空気出すディレクター。
でもやっぱ「俺、神になりたい」って人前での言える?てはなしだよね。勇気どーたらじゃなくて正気の疑われるよね。ふつう。ミリヤも「だから、あえて「ミューズ」って言ってんだよ、ボケ」的な空気で応戦してた。

実際、取材VTRで加藤ミリヤのライブの模様はスゴかった。ファンの子はほぼ女の子。10代後半から20代くらいかな?。ステージにミリヤでてくるだけで会場のボテージがパンパンに。黄色い声の黄色さがハンパない感じ。大音量で真っ黄っ黄!泣いちゃってる子もワンサカ。たしかにあの空間ではミリヤは神っぽかった。バリバリ信奉の対象。生き仏、御神体。神々しいって感じじゃないけど。

ミリヤの女神的状況について書いたが、ここから本題。神田千里著「島原の乱 」(中公新書)のはなし。宗教っぽい見えるものが単なる作法というか道具で、全然思いがけない考え方、信仰心が行動を突き動かしたりするんだなと思った。で、一見宗教クサくない考え方、概念が今現在も結構幅を利かせたりしてるんじゃないかなって思ったりした。だから島原の乱って歴史的事件を素材にした、日本的信仰のかたちを探る本って感じもする。かなりの長め射程。

この本、島原の乱に至る経緯や、乱の時系列的流れ、幕府側の対応、蜂起側の動向や連中のバックグランド、周辺の大名たちの対処などなど、島原の乱の経緯から終息までをけっこう細かく追ったもの。だけどかなり頁を割いて記述されている。が、それは著者の主張の補足するも。著者の言い分は、島原の乱キリシタンの蜂起でない、というもの。島原の乱キリシタンの蜂起でない。百歩ゆずってそうとしよう。じゃ一揆だいう証拠は何だ?ってことになる。

蜂起民は一度キリストの教えを捨てた連中だった。島原はキリシタン大名有馬晴信の領地だったため、布教に寛容な土地柄だった。が、領主も変わり、教えはご禁制となった。その折、彼らは棄教した。だから、島原の乱は宗教的自由を求めた闘争ではない、ということ。

でも、蜂起した時点は再度入信した信者だったから、信仰に基づく戦争だった可能性は残る。この本は、再度入信する動機が別の信仰に根ざしていた、とみてる。著者によれば、飢饉や不漁は天罰と考えられたと指摘する。領民たちはは、棄教したことが禍を招いたと考えたのだ。天罰を避けるために再入信した。

こうした心の動きは、キリスト教の教えに実直だろうか?たぶんそうでない。そもそも敬虔なキリシタン棄教しない。また飢饉や不漁は試練として受け取るだろう。有り体に言うと連中は天を信じ、天の怒りを鎮める手段として、キリスト教に復教したのだ。その意味で、島原の乱キリシタンの宗教闘争だった可能性は低い。

ところで、島原の乱は江戸期だが、キリシタンの不遇は秀吉の出したバテレン追放令に端をはっする。その折、なぜキリスト教を禁止するのかという宣教師たちの質問に秀吉はこたえ「日本国は私や大名が神としてある。キリシタンの教えとこの国の治世は根本的に相容れない。だから禁止する」という意味のことを言ったとか。秀吉のキリスト教禁教の言い分から、当時の為政者の政教未分離な宗教心が垣間みえる。神的威信があるから戦に勝ち、領国運営も成立しているのだ、という勝ったモンが神的な論法。著者によれば、その背景に天道信仰があったという。

天道とは、人の行いに対し、恩恵与えたりや懲罰をくだす超自然的な力、存在。つまり秀吉の天下統一は、天道にかなった人物による偉業というわけだ。島原の領民たちが飢饉は天罰だと考えた背景にも天道信仰があっただろうと容易に察しがつく。

で、加藤ミリヤのはなしにまた戻る。ライブ終りの出待ちの様子が興味深っかた。ライブで絶叫声援送っていたファンの子達が、出待ちでミリヤが出てきても小さめな歓声。夜なんで、周囲の居住者に配慮した弱めの声援ということらしい。ガハハ。ミリヤファンは、ミューズの評判を損なわぬよう行動を律してるわけね。もしかすると、ミリヤがブログとかでその辺注意事項的にファンに自重をうながしてるかもしれない。ミューズも単に神輿に担がれてるだけじゃないっぽいよね。天道にかなってないとねー。



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