コーエン兄弟監督「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」感想。フォーク版フーテンの寅のフガフガな日々。


ニューヨーク。売れないフォークシンガー、ルーウィンの一週間を描いたもの。金欠。友人宅を転々と泊まり暮らす日々。そんなある日の友人宅。ペットの猫ちゃんが玄関からさーっと逃走。ツキに見放された奴のツキに見放されてる感がスコーンと分かる。

ネコはメタファー的小道具。この場面ではラッキーの象徴。ルーウィン足下をすわーっとすり抜けていく猫ちゃんの幸運の野体現ぶりが可笑しい。

かつては二人でやっていた。けど相方は自殺(コレもツテないエピソード?)。ルーウィン、ソロでやっていくしかない。レコード出した。タイトルが「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 」。が、反応は芳しくない。たぶん有り金だけでなく借金もしてレコード出した模様。普段から金に縁のない奴が、さらにレコード出すため金突っ込んだあんばい。こいつは風采以上にヤバい感がプ〜ン。

大枚はたいてレコードがゴミじゃ哀しすぎる。彼はシカゴのプロデューサーに逢いに行く。シカゴに行くというデブ老人とその運転手のコンビ。彼らのクルマに相乗りさせて貰う。ルーウィンの抱っこする猫ちゃん。ここでのネコは。ルーウィンの疫病神の役割。疫病神と思いつつも抱えてなきゃならない(しかもシカゴに成功を掴もうという旅道中に)ルーウィンが可笑しい。

ところで、ネコはルーウィン自身の分身でもあると思った。彼は気まぐれで、定住を好まず、街のあいこちを転々と暮らす。その有り様がまるで野良猫そのものだと。じゃ、彼はなぜ間借り人生をやっているのか?夢があるから?いやいや、そうじゃない。彼は本能的に定住から逃げているのだ!

ネコ=ルーウィン。そう考えると、この映画、猫写真家の岩合光昭さんの世界の猫ちゃん追っかけドキュメンタリーの人間に応用した版にも思えてくる。

元カノのジーンが妊娠したと打ち明けるシーン。それはルーウィンに覚悟があるかどうかを知りたいからだったはず。ルーウィンへの彼女の罵倒は、実は叱咤。彼に奮起を促している。「肚をくくれ、年貢を収め時だろ?」と。暗に復縁を迫っているのだ。
けど、ルーウィンはまったく彼女の意図が伝わっておらず、中絶しか考えてない。で、中絶の金を工面することに奔走。

友人宅のカウチで寝泊まり転々する生活は不運でなく、ルーウィンの選んだものだ。というか、奴はそういうタチなのだ。まさに野良猫気質。キャーリ・マリガン演じるジーンのような女に言い寄られ(?)、それに気づかず、明後日の方向に奮闘し四苦八苦するルーウィン、ホントに寅さんっぽい。まさにフォークシンガー版「男はつらいよ」だ、これ。

寅さんプラス岩合さん。不可思議な結合だ。けど寅さんほど可愛げがないね。岩合さんの撮る猫ももっと可愛いし。間が悪い男なんだよな、ルーウィン。もう、なんか間の悪さが服来て歩いてるっ感じ。とにかく間が悪い。もう一個の欠点、鈍感さなんか。間の悪さに比べりゃや赤ん坊みたいもんだね。なんでマリガンみたいな女が惚れるかねぇ。プンスカ!


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