ウェス・アンダーソン監督「ムーンライズ・キングダム」感想。


ボーイスカウトのサムと思春期で扱いの難しい少女スージーの駆け落ち顛末記。ウェス・アンダーソンの最新作。追随を許さないオサレな画づくりは健在。厭味なほどの美意識と一抹の寂しさが絶妙すぎ。まあ要するに、ウェス節炸裂の快作というあんばい。

ウェス作品のテーマは一貫して「家族」。けど、この家族というのが「帰るべき場所」とか「最愛の人々」というようなプラスイメージでない。有り体にいえば「家族という幻想」、
だめ押して的にその幻想と暮らす人々たち。「ダージリン急行」の夫の死を契機にインドに出奔する母親と彼女を探す息子たち。「ファンタスティックMr.FOX」のフォクシーは、キツネとしての本能と善き夫、善き父という役割に葛藤する。いずれも「家族」という場所のかりそめ感がほのめかしている。むろん、それらは監督の家族観の反映だろう。ちょっと気取り気味のオサレなウェス作品たち、そのどれも物寂しいのは、十中八九、「所詮他人の寄せ集まりに過ぎない」という冷めた家族観のせいだ。

本作もその例にもれない。主人公の片方スージーは多感で難しい年頃。弟たちはバカそうだし、両親は夫婦仲がとっくに冷めきっている。しかも母親は巡査と不倫中という有り様。一方のボーイスカウトサムは孤児。里親とはあまり折り合いがよくない。ふたりは教会の聖書劇「ノアの方舟」で出会い、意気投合し文通を始める。そして駆け落ちへ。困難を二人で乗り切ろうとした二人だが、むろん子供ふたりで乗り切れるほど世間の荒波はあまくない。呆気なく駆け落ちは頓挫する。

けれど彼らの試みはムダでは無かった。この映画、出会ったキッカケもそうだが、「ノアの方舟」をなぞっている。実際意外なモノが方舟として二人に手の差し伸べる。もちろん方舟は新たな絆、あたらしい家族を意味している。家族という物語の終焉と再生。ラストのビル・マーレイ演じるスージーの父親、マヌケ過ぎて可哀想。まあそれがウェス流の苦いユーモアか。



ムーンライズ・キングダム [DVD]
ムーンライズ・キングダム [DVD]
Happinet(SB)(D) 2013-08-02
売り上げランキング : 5015


Amazonで詳しく見る
by G-Tools


ファンタスティックMr.FOX スペシャル・プライス [DVD]
ファンタスティックMr.FOX スペシャル・プライス [DVD]
Happinet(SB)(D) 2013-12-03
売り上げランキング : 14171


Amazonで詳しく見る
by G-Tools


ダージリン急行 [DVD]
ダージリン急行 [DVD]
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン 2012-12-19
売り上げランキング : 11642


Amazonで詳しく見る
by G-Tools