ロマン・ポランスキー監督「おとなのけんか」観た。


◇「おとなのけんか」は、登場人物が四人の室内劇。元々舞台が原作らしい。テーマ的には家族と個人。森田芳光家族ゲーム」や黒沢清トウキョウソナタ」を思い出した。
子供の喧嘩。振り回した棒でくちびるを切り、前歯が折れた。この映画は、そういう経緯があっての、怪我させた息子の両親の被害者宅訪問の話。お互いの立場を尊重した空気がかたち作られ、「さあ、そろそろオイトマしようか」と加害者側夫婦が腰をあげたあたりから始まる。
二組の夫婦、お互い打ち解けているかに見えた。けど、それは全然上っつら。それぞれ腹んなかでは、ねたみやそねみ、値ぶみ、根拠ないレッテル張り、その他諸々の悪感情が沸々と煮えたぎり爆発寸前だった。
結局それが爆発する。ご近所さん同士の大人の付き合いという「仮面」が剥がれ、それぞれの本音がむき出しなっていく。

加害者側の夫婦の夫を演じるのはクリストフ・ヴァルツ。「イングロリアス・バスターズ」の切れ者ナチス親衛隊大佐役や「ジャンゴ 繋がれざる者」でドイツ人医者役の人。さすがタラも認めた千両役者ヴァルツさん、本作でも「胸くそ悪い厭な辣腕弁護士野郎」を者の見事に体現している。

この加害者側夫は、現代社会も強い者が勝つ弱肉強食時代と思っている節が会話の端々にみえる。おそらく彼はこん棒とか刀とか銃でなく、法律こそが今という時代を勝ち上がる武器だと確信している。
四人中、最初から言動にウソがないのも彼だが、それは法律に精通する弁護士としての自惚れ、自信過剰さの表れと受け取れる。つまり、ケータイマナーの悪さは天然ボケでなくて、自己顕示欲そのものだと言える。妻ですらこのケータイに苛立っている。けど、それは場の空気を読めない夫にいらだっているのでない。彼女は、「俺は場の空気を読む必要のない男」という夫の自己認識にムカついているのだ。

結果、弁護士野郎は妻の不意打ちの反撃を食らう。一方、夫を制裁した妻は夫と出向いた被害者宅で一体全体アタシ何をしてるんだろうと途方に暮れる。まあ、途方に暮れるしかないだろう。

迎えた側の歯を折られた息子側、彼ら夫婦のあいだも険悪な空気。子供の代理戦争が仲間割れという最悪な結末。夫や妻というお互いのツレアイに対する積もり積もった恨みつらみ、鬱憤が連鎖爆発した塩梅。
可笑しいし、哀しい。



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