西川美和監督「夢売るふたり」感想。


◇「夢売るふたり」をみた。 市澤貫也(阿部サダヲ)と里子(松たか子)は小料理屋を営む夫婦。店を火事で失い、再起を誓ううふたりの話。
ひょんなことから詐欺ギリギリの再開資金集めに奔走する一澤夫婦。徐々に貯まる支度金。が、詐欺まがい金集めで店再開の夢と引き換えに、なにか大事なもが壊れていく予感を抱えるふたり。。。。

阿部と松ふたりの演技がヤバかった。特筆すべきは松の嫉妬にうち震えつつ食パン食らうシーン。最初はジャムを盛って、二枚目はジャム無しままムシャムシャと食らうとこ。圧巻のパン祭りっぷりだった。

操縦する妻とされる夫。火事になる以前の小料理屋もがそういう案配でやっていた。主首尾は上々。店再建までもう一踏ん張り。が、再開が現実化する一方、夫婦のあいだに溝がうまれる。
木村多江演じるハローワーク職員木下との再会。里子は厭な予感抱く。寛也が自分の手駒としてでなく積極的に木下宅へ行きたがっていることへ強い不安。
むろん里子の不安は、夫婦的キヅナのゆらぎへの不安だろう。そして、ふたりを見守る観客のボクは、妻の操縦なしに突き進もうしたときのこの夫の危うさを火事シーンで知ってるから、里子の不安が共鳴的にゾンゾン増幅される。
冒頭の火事シーン。客の注文はガンガン入り、給仕の里子もてんてこ舞い。寛也は、俺は里子の操縦で動いてるだけでないと常連客の岡山にアピールすることをヒラメく。火事は彼がそうやって火元から目を離した束の間、内装に燃え移り炎上したのだ。寛也はさらに消火作業中に油を倒してしまい引火させ、本格的に火事をデカくした。店を焼いた元凶は、調子ノリなこの夫だったのだ。
里子。店への執着と嫉妬めいた感情との揺れ、夫婦の紐帯であるはずの夢が、ふたりを疎遠にしていくというジレンマ。多忙なときは忘れてられるが、ふとしたキッカケで厭な予感こみ上げてくる。義父から電話。なぜか涙がでてくる自分に戸惑う里子。ふたりの幸せが遠のいく気配。
ふたりがチャリンコ二人乗りで見上げた夜空は晴れ渡っていた。太陽でないにしても月のような明るさで照らす未来。彼らはそれに邁進した。けっして大それた夢でもなかった。けど手段が間違っていた。詐欺まがいとかそういうことでなく、夫婦のキヅナをそこなうような方法が。
夢を売ってるつもりが、夢に吞込まれた転んだというあんばいか。ラストの里子が働く氷見の漁港。鬱蒼たる雲、あの向こうに太陽がある。ふたりは離ればなれながらキヅナを取り戻せただろうか。気張った里子の顔が印象的だった。