○ファットマン、一輪車、花火。 大林宣彦監督『この空の花 ―長岡花火物語』感想。


◇不可思議な映画体験だった。「観た」というより、「映画を浴び」たという感じ。
新潟県長岡の花火は、空襲で死んだ長岡市民に対する鎮魂の祭イベントなのだそうだ。そして、花火と原爆が同じ仕組みというコトを前提に、極めて大林的な長岡が綴られていく。
松雪泰子演じる天草の地方新聞記者、遠藤玲子のプライベートな長岡旅行。描かれる長岡は基本実際の長岡で、語られる歴史もその通りなんだろう。けど、スクリーンに映し出されるその風景は彼岸感に溢れていた。
松雪の遠藤玲子高嶋政宏演ずる片山先生も、監督の分身のようだ。元木花(猪股南)という一輪車の女子高生に声に駆り出され長岡空襲の芝居を企画する。そして片山は、元カノの遠藤に手紙をかく。芝居を観に長岡に来てほしい、と。
片山の手紙、遠藤の長岡旅行はキッカケはそれだった。いや、本当のキッカケは片山の手紙というより、片山の背中を押した存在かもしれない。
片山を芝居に駆り立て、元木リリ子(富司純子)に紙芝居を描かせ、タクシードライバー笹野高史)に土地を襲った空襲を語らせる存在。たぶん、それは空襲で死んだ人たちの御霊のことだ。
ラスト。漠然とした将来の不安に耐えきれずご破算になった男女の仲。彼岸的な声が媒介になり、ふたりの再会で閉じるという帰結を、ボクはある程度覚悟していた。けど全く違っていて面食らった。
片山と遠藤。ふたりは監督の分身のはず。その意味でも二人の再会は必然に思えた。けど、そうしなかった。そう出来なかったいうべきか。何故か?
監督自身も長岡で声を聴いたから、というのがボクの推理だ。結果、遠藤玲子は記者して果たすべき任務を見つけた。彼女の踏ん切りは、監督自身の決意の表れでもあると思う。齢七十とは思えない気色悪いほどの若々しい感性、健在。観て本当によかった。



追記:アップリンクでの上映は8/3日まで。けどポレポレ東中野で上映する模様(8/18(土)〜8/31(金)の2週間。連日18:10(1日1回))。お盆時期に観る本作もまた一興かも。
https://twitter.com/Pole2_theater/status/228725603816333312