yasulog2011-05-14

○エレガント分析、松尾潔の場合。ー「アフロ・ディズニー2」雑感


◇ディズニーさんちのネズ公が開拓した動きと擬音のシンクロ的な輪郭強手法と展開としてのジャズを経てのブラックミュージックの全盛。そしてマイケルジャクソンによるMTV革命という道筋。更にBPM依存なダンスという副作用。
元々はジャズの今日な辺境性への反発からスタートした大谷&菊地の鋭い与太ハナシは、文明批評的大風呂敷の様相を深めてきました。本書は慶応義塾あった二人による講義の録ったその後編。多士済々のゲスト講師を招聘し、アクロバティクに膨張されてきた妄想、つまり「世界のアフロ・ディズニー化」という見立てにツッコミを入れて貰うというか、かき回しもらおうという趣向。
ずっと頭に残ってるのが松尾潔さんの回です。松尾さんは辣腕音楽プロデューサー。平井堅CHEMISTRYEXILEなどの数々のアーティストたちの成功を差配してきた黒幕的存在。ボク個人的にはFMラジオでたまにフワフワ喋ってる陽気なオジサンくらいの印象だったのですが、さすが黒幕はスゴい。
前述したように、この本はほぼ妄想に妄想を重ねた内容です。ただ独り合点でなく、中年ふたり合点故にスクイがあります。さすがにアッチへ行ってない、というか踏むとどまっています。
率直にいえば、そのギリギリ感がバイブルっぽいなと思うのです。預言ノ書というか、大切なことが書かれているというニオイがするのです。
けど、まーボクにとってのバイブルが他人にとってのそれとは限りません。むろんふたりを全然知らない会社の同僚なんかに貸したりとかは愚の骨頂というか蛮行もいいところです。まず読んでもちっとも元気にならないでしょう。で、松尾さんの回。よどみなくどんどん喋ってる松尾さんにかなり衝撃をうけます。つまり彼は大谷&菊地のシャーロックホームズ的妄想を完全読み解き、その上でワトソン的に自分のハナシをしているのです。
コレはスゴい!他のゲスト講師陣も喋りまくりですけど「自分の専門領域における」という具合になんか距離がある気がします。松尾さんの場合、生身で大谷&菊地に向き合っている!この真摯さ、ガチさが胸に響きます。
そんでもって吉田健一みたいな文章を書きたいと思っていたと松尾さんは自身を語ります。コレはいわゆる吐露というヤツです。完全吐露している!「俺を分析しろ」という合図です。
だからボクは吉田の「東京の昔」を読んでみました。うーん、全然響かん。けど吉田健一の筆致をエレガントと捉えると全て繋がります。吉田健一的文章に憧れた松尾さんは、まんまパクるんでなくて諧謔でのぞんだってことです。で、それはパステルカラーの軽自動車からEXILE流れるとき、菊地風味がまじってるとオモシロイなって思う発想もおんなじてこと。エレガントを鋭敏に感知するけど、まんま模倣するのはダサイという分別、それこそが松尾潔の粋ではなのでしょうか。
すると、こういう見立ても可能かもしれません。「八艘跳び的なメチャクチャなロジック展開な妄想の面白さは、実はジャズ的諧謔だった」という。つまり松尾さんの回は、ご自身による自分種明かしであると同時に、大谷&菊地スタイルに対する批評でもあるわけです。


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