○忠誠から友情へ ー トム・フーパー監督「英国王のスピーチ」感想
*内容に踏み込んで書いてます。ネタバレを望まない方は本作観賞後にお読みください。


1930年代、ファシズム社会主義の台頭とヨーロッパ情勢は一触即発のキナ臭い空気渦巻く頃の英国王室のハナシ。
ある目標にむけ鍛錬を重ね、みごと目標を果たす式の「ベスト・キッド」っぽいストーリーなのかと思ったが、そうではなかった。言語聴覚士ライオネル・ローグ(ジェフリー・ラッシュ)は大衆の代表で王と彼をつなぐものは忠誠でなく、友情であるといったことがテーマの作品。
有り体に言えば、国民との新たな関係、友情こそが吃音の処方箋だったのだ。ジョージ6世(コリン・ファース)は歴代王や実父ジョージ5世の偉大さに怯えいた。そして畏怖する余り彼は吃っていたのだ。要するに吃音は、ジョージ6世自身の王様稼業への過度な忠誠に原因だったということか。
途中ジョージ6世がニュース映画(?)で演説するヒットラーを目にするシーンがあるが、世界が経験する二度目の大戦が王の喋りから醸し出される人柄vsヒットラーのパフォーマンスのつば迫り合いであると示唆しているようだ。タイトル通り英国王の演説がこの映画の一番に見所としてあるが、このエンディングは我が立憲君主制ファシズム帝国ドイツを倒したと言いたげで、プロパガンダのニオイがする。勝てば官軍史観がと言えば酷かもしれないが、それが作品の格をかなり下げていることは否めない。
やはり「ベスト・キッド」方式のシンプルな目標達成譚にすべきだったのではないか。監督は史実に忠誠を尽くすあまり映画をおろそかにしていないか。史実をベースにすることは、イマジネーションを膨らませることの足枷にならないはずだ。それは賞レースの対抗馬「ソーシャル・ネットワーク」が如実に示している。
米アカデミー作品賞。下馬評ではこの映画が最有力ともれ聞くが、ボクは断然断固「ソーシャル・ネットワーク」に支持する。