噺家ダークサイド - 柳家小さんの漆黒の芸風 


CD「花形落語特撰~落語の蔵~/(五代目)柳家小さん」より、「試し酒」を聴く。
酒の席、客の近江屋の旦那が大店の主相手に、供の久造は一度に五升呑むと信じ難い酒豪伝説を披露する。面白がった大店の主は、ホントに五升呑めるか賭けようと提案する噺。久造、はたして五升の酒を呑み干せるや否や。
五代目柳家小さん。と言っても分からない方もおられるだろう。以前永谷園のインスタントみそ汁のCMに出ていた禿頭のおじさん、アレが小さんその人だ。今になって思えば、落語という芸のなかの、蕎麦食う真似など形態模写にスポットをあてたのは、たぶんこの小さんだった。テレビというメディアを意識しての小さんなりの作戦だったと思う。
実際、この録音でも久造が酒をくびくび呑みくだりで客席から拍手が起こっている。仕草再現芸こそ小さんの骨頂という認識は、すでに客側に擦り込まれていたと言えようか。
けれど今回聴いてみたボクの印象は違った。出来上がった酔っぱらいが、不穏な空気を醸しているのだ。
有り体にいえば、ダークな酔いっぷり。発せられる言葉はありきたりな酔っぱらいのそれだが、腹んなかではサマザマな感情が渦巻いていいるようで、感情たちが言葉を捕まえることができず鬱屈し各々体育座りをしている風な。。。。久造の酒は陽気なようで、実は狂気をやどした酔態なのだ。
換言するなら、酒呑み仕草などの模写芸は、小さん個人の闇を巧妙にパッケージするワザなのだ。
落語界初の人間国宝、小さんだがその芸風は実は暗い。パーソナルなドス黒い闇が、漏れてしまっている!この闇、どこかで嗅いなと思ったら、弟子、談志の闇だと気がついた。もちろん明るければイイってもんでもないが。


花形落語特撰~落語の蔵~/(五代目)柳家小さん
花形落語特撰~落語の蔵~/(五代目)柳家小さん柳家小さん(五代目)

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