○狸、枝雀、松本人志


桂枝雀「枝雀落語大全(28)」収録の「権兵衛狸」を聴く。
権兵衛さんが引き戸をガラっと開ける狸登場のシーン。枝雀、「キツネ」といい間違える。ま、こうした失敗も愛嬌か。
「狸が戸をどうやって叩く」の動物ウンチク挿話のタイミングが、金馬や志ん生、談志と違う。これは枝雀の意図的な工夫だろうが、巧くいってない。
桂枝雀という噺家の愛嬌とごう慢が堪能できるという意味で貴重な録音。

貴重な録音という意味で、松本人志「しんぼる」。パジャマ男が、ココから出られない!とい時点で絞るだす絶叫は、スクリーム芸の極北でないか。
映画宣伝でも用いられるこの絶叫は、閉じ込めれてる!という状況把握の「あっ」と、それから一足飛びに広がる恐怖の悲鳴といえるだろう。注目すべきは絶叫さ加減。ボリューム全解でないやや抑制的なトーンが心憎い。
つまり、ぼくは、この絶叫に芸人松本人志の骨頂をみている。全開でない抑制的トーンは、悲鳴=現状肯定に抗おうとする、もう一方の彼で、これによって絶叫は心のなかのせめぎ合いというニュアスを獲得している。相反する感情がない混ぜされたアノ絶叫に戦慄する俳優さんって結構いるかもしれない。
テレビの松ちゃんを期待すると肩すかし食らう。そういう意味で興行的に成功すると思えない「しんぼる」だが、馬鹿でかいスクリーンで制約なしに展開される「一人ごっつ」の破壊力を目撃するのも悪くないと思う。


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