いなかっぺ大将、あるいは旋律を揺れる身体 ー 菊地成孔大谷能生「アフロ・ディズニー」読み中。
文藝春秋 ISBN:9784163716305


文庫版「東京大学アルバート・アイラー 歴史編/キーワード編」が予期せぬ数字をはじき出したとかで、青色吐息の出版界隈で注目の菊地・大谷コンビの最新刊。慶応での講義がベース。通勤帰宅の車中読書はもっぱらコレ。
なんだ?なんだ?最近ジャズってかエラく堅苦しい枠ハメられてね?という違和感。「アフロ・ディスニー」が刊行されたことは、ふたりがジャズ界隈を生業としてることと無関係ではないハズ。デッカい大海原で泳ぐって実に気分爽快だなーって思ってたら、いつの間にか其所は潮溜まりでした!みたいな、今のジャズっそういう局面にあるんです、たぶん。
いや場末感てわけじゃなくて、ジャズって潮溜まりが「なんか希有だから、大切にしようぜ」って空気が充満しつつあるってこと。
というワケで、お二人のコンビ活動、音楽の潮溜まり化に至る歴史の、音楽とテクノロジーの蜜月を考察するという共闘は、幸か不幸か「ジャズやってるんですか?スゴいですね」式の無形文化財扱い拒否というモチベーションが根本にあると思われます。
さて、技術革新が人間サマの暮らしをドンドン良くしていくと素朴に信じられた時代がありました。実際便利になったし、ヒマができた分あらたな市場もうまれたりした。けどまぁ、バラ色って実際何色かわからんし。バラ色が万々歳の未来を意味しないという意味で、技術革新バナシもすべてプロジェクトX式で語れないわけで。
技術革新の恩恵、「快適」とか「便利」って人々の活様式をどう変えたのか?この本は、録音媒体レコードの発明など音楽周辺のテクノロジー革新にフォーカスし、今日的な音楽潮流の病的兆候を指摘するもの。だからって、こんなんじゃイカン!と立腹してるわけでもない。一体全体何なんだろうねぇ?とクビをかしげてるふう。スフィンクスが吹っかけたなぞなぞにうーんと考え込むのテイ。ま、安易にトンチに逃げないとこがエラいといえばエラいかも。
んじゃ、今日的音楽はどういう状況なのか?
極めてパーソナルな物として玩具化しおやつ化している!
それがお二人の見立て。
アニメ「いなかっぺ大将」で、音楽を聴くと自然と体が踊り出す主人公・風大左衛門。今じゃ東大生も音楽聴かせりゃ体を揺らすけど、あのアニメが放送された当時、音楽に併せて踊るという行為はむしろ奇癖だったのだ!と、そう言えば菊地さん、以前脳の人・茂木健一郎氏との対談で話していたっけ。
今回の「アフロ・ディズニー」は、いなかっぺ大将のごとく世界が踊り始めた今日的音楽潮流を読み解くうえで、目からウロコの恰好なテキストだと思います。


アフロ・ディズニー
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文藝春秋 2009-08-28
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