鶴瓶は「つるべえ」じゃなくて、「つるべ」  - 西川美和監督「ディア・ドクター」感想


ニセ医者のハナシ。
家事の片手間に鳥飼かづ子(八千草薫)が聴いているという設定で、落語のカセットテープが小道具として使われている。ひょっとすると、「ディア・ドクター」は西川美和流の落語なのかも。「代脈」という医者もチーフの噺をふと思い出した。
鶴瓶余貴美子笹野高史松重豊瑛太。キャストはいまどきの邦画でちょくちょく見る名前。けど邦画っぽくない。なんだか遠い異国の映画みたい。
病いにはおおっぴらにできない秘密性がある。
で、その秘密を患者と共有し、落としどころを探り探りするのが、医者本来の有り様なのかもしれない。
生きることが息をするとか心臓が鼓動するという意味と等価なら、人生苦労はない。生きることは、必然的に自分以外の他人と間合いをとって生きることなのだ。これが心底シンドイと思うとき、人は病いを運命と受入れるのかもしれない。
人口の半分が老人という過疎の村。必然病いは、生き死に関わってくる。つまり患者は、病いに応じて今後の身の振り方、死に方を思うのだ。
だから、病いという秘密を共有する立場は、患者それぞれの死に方に付き合うことになる。鳥飼かづ子は、生き生きとした人生を生きたいのだ。それがもはや出来ないのなら、生きてる甲斐もないと彼女は思っている。伊野治(笑福亭鶴瓶)が、その意を汲むということは、かづ子の死へ加担を意味する。
あわわわっ。医者って大変!!えっ何?年収2千万?いやオレはいいわ、遠慮しマス。他人様の生き死、往生背負い込むなんて、シンド過ぎっ。
病気を治す。それが医者のシゴトだと漠然と思ってた。けどやっぱ、それは本質的でないのかも。
いつ死んでもおかしくない老人、嫁の握りこぶし、大盛況の診療所、川で遊ぶ子供、などなど。いまどきの田舎のなんでもない景色が、どんどん異次元の様相を呈し、観る側の既知や常識をグダグダに砕いてしまう。
スゴいんです!「ディア・ドクター」。オススメ。




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西川監督の「ゆれる」もスゴイ。ある意味ホラー。