○天狗の焼け太り

http://d.hatena.ne.jp/yasulog/20090610#p1 から続き。
小松和彦「日本妖怪異聞録」、第四章「日本の大魔王 崇徳上皇」。


世界の山ちゃん」はチェーンの居酒屋。名古屋名物、手羽先がリーズナブルなお値段で食べられるってことで人気な店だ。俺もたまに池袋の店を利用したりする。
ま、ピリ辛手羽とビールが相思相愛的なマッチングの大変素晴らしい尾酒屋の「世界の山ちゃん」なんだが、ひとつ、「それはちょっとなぁ」と思ってることがある。世界の山ちゃんのマスコットキャラ。翼が生えたオッサンなんだけど、足の形状が完全に鳥(参照).....。
うーんなんて言うか、いつ見てもこの山ちゃんマスコットにはギョッとさせられる。たぶん天狗モチーフなんだろうけど、デザイン云々いう積もりはないよ。つーか、コレが名古屋グランパスの新マスコットってゆーなら間違いなく俺グランパスファンになる。豊スタまで応援いくっしょ。だってそこだけでしか売ってないグッズがあるんだよ。背中背負う式翼ね。これを背負って皆で応援するわけ、ゴール決まった瞬間とか、羽広げてバサバサバサぁーって皆でやってね。
ハナシが反れた。ま、要はさ、このマスコットって居酒屋って商売にしちゃエグすぎないか?って思うわけ。ま、美味いから行くけどね。で、行くとギョッとすんだよ、反復になっちゃうけど。

さて、天狗は天台宗が己の法力を宣伝するためこしらえた仮想敵だった。邪法に長けた反面、浅知恵の間抜けキャラが相場。そんでもって仏法の道を外れた坊主が天狗に変化すると説かれ、とりわけ真言坊主の変身率が高いとされた。競合勢力をさらっと貶めるこのあたりに手管に天台のエゲツなさが薫って面白い。
まあ言ってみれば、天台の天狗退治バナシってのは敵対勢力の悪口と俺自慢だった。たぶん内輪で語られる分にはやんやの喝采だったろう。要は、天台の鼻っ柱、猛烈な自己顕示欲が天狗退治譚の根幹なのだ。換言すれば、天狗とは天台僧侶の人間クサい自画像ってことだ。
中世になると天狗の性質がガラッと変わる。怨霊天狗の誕生だ。
これは無念非業に死んだ者が変化し祟るという怨霊信仰との合体だった。当時、流行病や雷などの天変地異を怨霊のシワザと捉えたようだ。後白河上皇の病気や平清盛の死もそう看做され、崇徳上皇の祟りとされた。彼は政争に敗北し、流された讃岐の地で無念に死んだ。上皇の怨念は「金色の大きな鳶の姿に化生した天狗の首領」となって、朝廷転覆を企てていると、貴族連中をひどく震撼させたとか。
魔界も巻き込んだ権力争奪戦が発生したわけだ。現世の位が引き継がれるってトコが怨霊信仰のキュートさだ。そのヘンの漁師が魔界に落ちても大した怨霊にもならないが、上皇が怨霊化もすると位の高さが反転し激ヤバとなるわけだな。上皇の場合、羽のゴールドって特別仕様なあたりからも、破格の妖怪、首領ぶりが伺える。
これってたぶん藤原摂関家の衰退というか、貴族以外の院やら武士やら寺院やらと政治闘争のプレイヤー激増えしたための副作用みたいなもんだったかも。骨肉の争いかつ権謀術数のめぐりめぐらしで、勝ち抜いた側も相当な心的プレッシャーを抱え込んでしまい、妖怪界の小結の程度の天狗を焼け太り的に横綱に格上げしてしまった、という。
あっ山ちゃんマスコット、アレって鼻の高くない天狗ってことか!!
そうか!商売ってのは天狗になったらイカンという自戒が込められていたんだなぁ、なるほどぉ。。。。って、すんなり納得できるかっ!鳥類足がキモいんじゃ!!


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