○変哲のない路地がなつかしい


帰りしな池袋リブロに寄った。
文芸書コーナーで片岡義男の新刊本発見。
「名残の東京」。路地や看板、マネキン、電柱などを撮った、義男の東京風景写真集。
義男写真はキホン風景スナップだ。東京の街、表通りからひとつ脇へはいったトコロの何気ない風景が満載だ。それらは小学生男子のヘン顔よりユーモラスで、お昼休みに群れなすOLよりセクシーだ。セクシーという他ない。
とくに、オムライスの模型写真がイイ。オムライスの写真三枚あるが、ちょっとボケ気味のやつはまるで太陽だ。
これ撮るとき、義男どんな顔してるのか?
獲物を狙う猛禽風に眼光鋭く、ファインダーを覗いてたり。。。。するわけないか。
シャッターチャンスとは不可逆的な時間の流れのなかで、ダイヤの原石のように輝く決定的瞬間だと思われがちだけど、実は今ぼくやあなたの目の前にある何気ない風景こそが、レアメタルなのかもしれない。
意図せず出来上がったモノやモノたちが構成する風景は、意図せず出来上がっているがゆえに気兼ねなしに打ち捨てられてゆく。昨日まであった肉屋や文具屋、モルタル壁の印刷工場も来年再来年といわず、2ヶ月先にはモノのミゴトに消え、コイン・パーキングという結界が出現する。
あと10年もすれば、東京はコイン・パーキングとマンションだらけになるんじゃないか?不可逆的な時間の流れのなかで、かりに将来のある時点を想ってみる。5年後の8月とか、来年の冬とか。するとその将来から眺めた東京の路地は、往年の王、長嶋並に輝いてたりするんだろう。
路地、看板、マネキン。もしかすると義男は、泣きながら撮ってるのかもしれない。


名残の東京
名残の東京片岡 義男

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