○市と同乗


夕方の地下鉄、池袋で乗り込んでいた中学男子三人組が俺のヨコに立った。理科室脇の終始日陰で育ったヒマワリみたいなヒョロっとしたサマは、「貧相」の二字を彷彿。連中はどうってことない話題で談笑に興じていた。
まあ三人が三人ともサエナのだが、そのうちのひとりは石原良純似のニキビづら。中途半端に伸びた坊主刈りが中学的ペーソスをかもしていた。
あはは、とそいつが笑うのを見ておれがビビった。やつは一瞬白目むいてから笑うのだった。
「バクチ好きの按摩でございやす」のテイで周囲を油断させ、賭けてるやつが全員グルになって半に賭け、ツボ振りと示し合わせた上で、「出目は半だよ、按摩さんお前さん負けだよ、わるく思いなさんな、これが賭場のならいだ。さあ今張った分、全部よこしな」と言うが早いか、仕込みヅエが電光石火唸る!何が起こったのか誰も分からない。その刹那、伏せたツボがパカっと真っ二つに割れる。「皆々様方、あの〜丁半バクチってのはツボの中のサイの目に賭けるアソビでございましたね?あっしは、目がみえませんのでお尋ねしますが、ツボの中のサイの目、なんと出てマスか?」
でお馴染み、カツシン座頭市イカサマの裏をかいて全部かっさらっていくときのアノ白目向き笑いだ。
なかま二人は、白目むきを全然気に留めてない様子だった。やっぱ慣れだろうか?
慣れとはこわいもんだ。



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歌うような勝新文体、スバラシイ。


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カツシン座頭市シリーズ、俺的イチオシはコレ。