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○ロリータ、ぶっちゃけ不細工なんじゃね?
「ロリータ」の語り手ハンバートってオッサンは元祖ロリコン。
というか、「ロリータ」で主人公ハンバートが開陳する性癖、性的し好を、後にもっともらしい名前を付けられたのがロリータコンプレックス、所謂ロリコンの起源。
ま、誰が名付けたのかは知らないが、フロイトを齧った誰かのしわざだろう。作者ナボコフはフロイト流精神分析の流行を馬鹿にしたフシがある。おそらく彼は、ハンバートなる人物を戯画的性癖の持ち主とキャラ設定し、当時のフロイトかぶれの前にニンジンよろしくぶら下げたのだと思う。いまでいう「釣り」ってやつだ。だからぼくは、ロリータコンプレックスってのはそうしたナボコフの悪戯からヒョウタン駒的に生まれたのだと思っている。すなわち、ハンバートが道ならぬ恋に苦悶葛藤し、嫉妬するのは、「釣り」にほかならない。
「ロリータ」はハンバートによる自伝的告白スタイルを採っている。ハンバートはその文才を遺憾なく発揮し、己の人生の絶頂と予想だにしない結末を綴る。気乗りのしない引っ越しバナシで偶然出会った少女(つまりロリータ)に一目惚れ的に懸想し、なんだか神が俺とカノジョの関係を祝福してるんじゃないか的天の采配を感じつつ、社会的規範と内なる声の板挟みされるインテリの苦悩。少女に振り回されることの快感となにやってるんだ俺的萎え感。その辺を行きつ戻りつしながら確実にドツボにはまっていくハンバート。人生の破滅。むろんハンバートなる人物は虚構で、今更ながらナボコフって人のそれはそれは半端ない筆ぢから(筆圧じゃないヨ)に驚愕せざるをえない。
ふと思ったのは、ロリータって不細工かもってこと。
ハンバートは中坊くらいとき好きだった女の子の影をずっと引きずっていて、その面影をニンフェットとか理想化する形で育んでいた。で、ロリータだ。カノジョを見た瞬間、理想化したニンフェットを見いだしてしまった。これって別にロリータに惚れたぜ乾杯でなくて、ロリータの見た目のどこかに理想的な俺のニンフェットを発見し、目がハート心臓ばくばくさせてるってことっぽい。
つーことは、ロリータが実際の美少女である必要はないんじゃないのかな?いや無論ハンバートの目には美少女だろうけど。というか、ハンバートの変なフィルターのせいでロリータが美少女に見えて、そのことがきっかけで彼の人生が予期せぬ方向に流れはじめるという展開を考えれば、むしろロリータは不細工なほうが効果的かもしれない。
果たしてロリータ美少女か、不細工か。ロリータの容姿をふわふわ曖昧にうっちゃっておくこと、それが小説「ロリータ」のミソなのかもしれない。換言すれば「ロリータ」は小説にうってつけのハナシで、語りの詐術がふっ飛んでしまう映像化向きでないってこと。
といっても「ロリータ」は二度映画化されてる。だからあのキューブリックから最初のオファーもらったとき、あまりの青天の霹靂さにナボコフ、「えっ、マジで?」とビビったかもしれない。
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