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○獅子の記憶
まったく関係ないが、幼稚園時代のぼくは泣き虫だった。
泣き虫時代は当時の写真で容易に確認できる。泣いているぼくの顔がけっこうある。泣きまくっている。
何がそんなに悲しかったのかは、もう忘れてしまった。
当時、東京土産か何かで婆さんから動物のぬいぐるみを貰った。ぼくだけでなく孫全員がもらったはずだ。ぼくのはライオンだった。
泣いてるぼくの写真中でベストは、このライオンを抱えたスナップだろう。
ぬいぐるみだけども百獣の王ライオンと泣きはらした顔のぼくの対比がおもしろい。
乾闥婆(けんだつば)は、発音的にはインド神話の「ガンダルヴァ」にあたるようだが、見てくれの特徴はガンダーラの執金剛神と共通するようだ。共通点は獅子の頭を被ったスタイル。
カンダルヴァは神々の宴会のバンドマンというか楽神だが、中国へ伝播するうちに執金剛神のイデタチが習合してしまったか。
興福寺の八部衆は概ね童顔だけど、そのなかでも乾闥婆は幼い部類に入る。その姿は、まるで悪戯を叱られて親からゲンコ制裁をうける瞬間、思わず目をつむってしまった子どもだ。獅子の被りものも、パジャマのフードにみえる。
乾闥婆の写真を眺めて、往時のぼくを思い出した。けれどさすが八部衆、彼は泣き虫ではないようだ。
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