○「ウォッチメン」感想


正義の味方大活躍の痛快アクションを期待すると猛烈に裏切られます。
ウォッチメン」は、むしろヒーロー物の正義に痛烈なツッコミを入れたものです。それはコミックやアニメの正義のヒーローを標的にするような、学校にいかないニートの邪悪な夢想とは違います。
ようするに、わたしたちの住む現実社会における正義にツッコミを入れることが映画「ウォッチメン」のもくろみです。
逆にいうと、「ウォッチメン」の作中ヒーローたちは現実の正義を写しています。本作の批判として「原作に忠実さのために、映画的な興奮が犠牲している」といったケナシがありますが、それは言いかがりもいいところです。回転寿司屋で寿司が回転すると目が回るから回転させるな!というイチャモンと同レベルです。私見では、本作は原作をシナリオ通りに映画化したというより、「ヒーローの正義を疑う」という原作のテーマを忠実に映画化したもの捉えます。
ウォッチメン」が複数なのは、ヒーローの数だけ正義があるという皮肉を意味しています。
だから本作を日本でリアルに語るなら、朝鮮戦争における特需や安日米保体制についてふれるべきです。また、革命成就の武装闘争路線を捨てた共産党の正義の味方振りも見逃してはならないでしょう。むろん反共のために猫もしゃくしも動員した岸信介にも正義がありました。
端的にいえば、「力を合わせて悪に立ち向かう」式の戦隊ヒーローものは、おそろいの着衣というドレスコードに正義の執行が縛られています。本当の悪との対峙はそんなヤワなもんじゃありません。敵味方てんでバラバラのイデタチであるのです。一体誰が敵なのか?そして誰が味方なのか?リアルな正義はお互いの腹の探り合いから始まるのです。
正義というものは、毎週日曜朝に捨て置かれた炭坑で怪人をやっつける式の都合のイイものではありません。正義は生半可では成り立ちません。
もしあるべき理想がかなうなら、敵と手を結ぶことも念頭にいれるべきです。逆に立場を異にする正義はむしろ敵で、掣肘やむなしの覚悟が必要とされるのです。
ウォッチメン」は、ウソ偽りないガチな正義の暴露した英雄的野心に満ちた傑作映画です。