○読書の収穫 2008年


◇総評
映画「レッドクリフ Part 1」が予想以上に繁盛しているらしい。先頃わたしもスクリーン前に陣取った。いやー、スゴいな、ジョン・ウー。亀のドアップには参ったぜ。
読書界を三国志に見立てた場合、劉備玄徳はこの私をおいて他にない。
読書玄徳!ま、魏の曹操ほどの器は俺にないという意味だ。けれど、私は、本たちから愛されていると確信する。本当に私は本たちから愛されている。わたしにとって、本は家来、いや血をわけた兄弟に等しい。
若島正「ロリータ、ロリータ。ロリータ」を手に取った瞬間、竹林で昼寝する龍がふと脳裏をよぎった。それでコレは運命だと直感した。
左様、若島正こそが私が探し求めていた読書孔明、その人なのだ!!若島との邂逅がなければ、「ロリータ」の計も「ディフェンス」の謀も全く見破れずしまいの、凡庸な読書バカで人生終わったことだろう。そういう意味で若島正は、この私の恩人であり、師である。
嗚呼、腕がなる。胸が高鳴る。腹が鳴る。ヒッヤッホー!雄叫びをあげたい気分だ。なんせ本に愛された私なのだ。それが国士無双の読み手を得たのだ。我が読書ライフ快進撃はこれから始まる!!

1・若島正「ロリータ、ロリータ、ロリータ」
(作品社 ISBN:9784861821578)
本書だけ読んでもそれは、畳上の水練しかない。
無心で飛び込め! 「ロリータ」の海へ、ナボコフの手練手管に。

ロリータ、ロリータ、ロリータ
ロリータ、ロリータ、ロリータ


ロリータ (新潮文庫)
ロリータ (新潮文庫)


2・瀬戸山玄 「野菜の時代―東京オーガニック伝」
昭和30年代、飛躍的な経済成長をみせ、見事焼跡からの復興を成し遂げたニッポン。三種の神器・テレビ、洗濯機、冷蔵庫は、爆発的な勢いで生活のなかに根をおろし、人々の気持ちはやがてクルマ、エアコン、カラーテレビへと移っていった。
有機野菜のとりもつ人の縁。それは安倍晋三の夢見た「戦後レジームからの脱却」を告げる一条の兆しではないか。

以前書いた書評はコチラhttp://d.hatena.ne.jp/yasulog/20080328#p2

野菜の時代―東京オーガニック伝
野菜の時代―東京オーガニック伝


3・黒岩比佐子「編集者 国木田独歩の時代」
(角川書店 ISBN:9784047034174)
本書を読んで独歩という人が好きになった。それでいくつかの短編も読んでみた。
アタリ!
なんと、独歩は「すべらない話」の名手だった。「忘れ得ぬ人々」がオススメ。
以前書いた書評はコチラ http://d.hatena.ne.jp/yasulog/20080420#p1

編集者 国木田独歩の時代 (角川選書)
編集者 国木田独歩の時代 (角川選書)


4・円城塔Self-Reference ENGINE
(早川書房 ISBN:9784152088215)
もはや神というか宇宙っていうか自然(全体)と一体化したコンピューターたちの誕生。彼らにとって、人間は注意を払うほどの「部分」でもなかった。自我に目覚めた高性能コンピューターと人間との死闘なんていうハリウッド的未来が乳母車に見える。
以前書いた書評はコチラ。http://d.hatena.ne.jp/yasulog/20080425#p2

Self‐Reference ENGINE (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)
Self‐Reference ENGINE (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)


5・原武史昭和天皇
(岩波書店/岩波新書 ISBN:9784004311119)
実は明治初頭のナショナリストたちは、欧化を嫌悪しなかった。洋装の明治天皇は近代ニッポンの象徴だったのだから。
天皇の威光を後ろ盾にした明治政府は、この権威のさらなる盤石化を図った。しかし、そうした天皇エラいぞイデオロギーは、やがて南朝正統説を結実し、これが昭和天皇自身を心的に縛るように働いた。因果応報と言うにはつらすぎる。
以前書いた書評はコチラ。 http://d.hatena.ne.jp/yasulog/20080204#p1

昭和天皇 (岩波新書)
昭和天皇 (岩波新書)


6・甲野善紀前田英樹「剣の思想」
(青土社ISBN:9784791759255) 
百姓や商人連中相手に剣を教えること。太平の世は、剣術指南のシゴトを一変させた。
道場主は経営的見地からバシバシ打ち合える人気の道場を目指し、防具の導入した。今日的剣道のすり足はこのとき定まった。つまり、剣道の基本とされるすり足は、門弟拡大の処置の副産物だった。
以前書いた書評はコチラ。 http://d.hatena.ne.jp/yasulog/20080529#p1

剣の思想


7・スティーブン・ピンカー「言語を生みだす本能」上・下
文字をもたない部族はあっても、言葉をもたない部族はない。
長老が語るその集落の起源。それを記録するには、ふたつの方法がある。ひとつは絵に描く。もう片方が文字で綴る。絵よりも文字が優れている点、それは語られたままを書き取れることだ。その意味で、文字は言葉の音を写すように生まれるはずだ。つまり、文字は必然的に表音文字なのだ。白川静株大暴落。
以前書いた書評はコチラ。http://d.hatena.ne.jp/yasulog/20080608#p1

言語を生みだす本能〈上〉 (NHKブックス)
言語を生みだす本能〈上〉 (NHKブックス)

言語を生みだす本能〈下〉 (NHKブックス)



8・矢野絢也「闇の流れ 矢野絢也メモ」
(講談社+アルファ文庫 ISBN:9784062812375)
「闇の流れ」。なんだか物騒なタイトルだが、全然そうでない。司馬遼太郎を読むような爽快感すらある。 私は割と矢野が好きだが、そうでない人もいるだろう。玉野和志「公明党の研究」(
ISBN:9784062879651)で中和しながら読むと吉か。
以前書いた書評はコチラ。http://d.hatena.ne.jp/yasulog/20081109#p2

闇の流れ 矢野絢也メモ (講談社プラスアルファ文庫)
闇の流れ 矢野絢也メモ (講談社プラスアルファ文庫)



9・高田里惠子「学歴・階級・軍隊 高学歴兵士たちの憂鬱な日常」
(中央公論新社/中公新書 ISBN:9784121019554)
女の社会進出において未だ立ち後れていた戦前の日本において、孟子の母親・孟母は、理想的な女のゴールだった。
ニッポン的孟母たちは必死でわが息子を勉強させた。やがて彼らはエリートとして名を馳せた。けれど、連中は国家や国民に対してなんの責任も負わず、ただ母親に期待だけ背負ったとんだ食わせ者だった。
以前書いた書評はコチラ。  http://d.hatena.ne.jp/yasulog/20080806#p1

学歴・階級・軍隊―高学歴兵士たちの憂鬱な日常 (中公新書)
学歴・階級・軍隊―高学歴兵士たちの憂鬱な日常 (中公新書)


10・片岡義男ナポリへの道」
(東京書籍 ISBN:9784487802838)
レストランや食堂の店先のウィンドーに鎮座する天丼やオムライスやカレーの食品模型。ヨシオは今、年季の入ったナポリタンのアレを集めているらしい。コレだ!と狙いをつけたサンプルを見付けると、浅草カッパ橋あたりで購入した新しいナポリタン模型を持参、店のオヤジと交渉をするのだそうだ。「おたくのナポリタンの模型とこれを交換してくれ」と。
無敵。

ナポリへの道
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