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○高木徹「大仏破壊 バーミアン遺跡はなぜ破壊されたか」読了
(文藝春秋 ASIN:4163666001)
バーミヤンの大仏爆破にあたる経緯を、タリバン側、国際世論側の双方を取材したもの。
著者高木はNHK報道局のディレクター。NHKスペシャルの枠で放送されたドキュメンタリー「バーミアン 大仏はなぜ破壊されたか」は、彼の手がけたものらしい。おそらく本書は、その番組内容を本のかたちでまとめたもの。
まず、ビンラディンのアルカイダに「ひさしを貸して母屋をとられた」タリバンの政治手腕のセンスのなさが印象的。大仏爆破に到ったタリバンは、さながらアメリカ開戦に突入した大日本帝国を彷彿させる。そのテーブル自体が茶番であると国際社会とのたもとを分かち、外交選択を自らつぶす仕草は近代国家が万世一系の現人神(!)を戴いたかつてのニッポンがダブって見える。
高木は、大仏破壊を9・11の予兆的事件ととらえている。つまり、9・11とタリバンの大仏破壊決断に因果関係をみているわけだ。
私はこの高木の見立てに半ば同意する。けれど半分合点がいかない。大仏破壊後にも国際社会には、もっと打つ手はあったはずだ。なぜなら、タリバンの「ポイント・オブ・ノーリターン」は、タリバン側の歩みよりだけでなく、もう一方の努力よって築かれるはずだろうから。
率直にいえば、高木は大仏破壊をタリバンの「ポイント・オブ・ノーリタン」としているが、これは過去を睥睨してみる地点にたったときに見える歴史的眺めにすぎない。
永続的な交渉は、永続的であることに意味あり、またそれは常に引き返す道を探す作業であるはずだ。片方がどんどん意固地になってる場合、果たして「オサマを渡せ」的恫喝や女性の人権侵害主張は有効だったか?それ以外にタリバンをテーブルにつなぎ止める選択枝は本当になかったのか?
この点について高木はきわめて無頓着にみえる。国際社会を善人集団と見ているふしがあり、対タリバンの交渉者たちに感情移入しすぎるきらいがある。結局国際社会を構成する各国の外交やNGOスタッフに、その失敗を突く質問は高木からは出てこない。
タリバン内の開明派で、元情報文化大臣ホタクの国際社会批判コメントも「遅かった」という意図で集約されているが、大仏遺跡もアフガニスタンの国宝としたかったホタクのナショナリズム的野心から「遅かった」に過ぎない。高木が、このコメントを自分の設定したタリバンの「ポイント・オブ・ノーリターン」につなげようとするのは無理がある。
外交とは、お互いが切羽つまらないように関係をつくっていくことだと認識した。本書から反面教師的に学んだことはそれに尽きる。
大仏破壊 バーミアン遺跡はなぜ破壊されたか | |
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