稲葉振一郎×萱野稔人トークセッションを聴く


社会とか国家、市場などの制度とその前提(=自然)との関係を弾力的に考えるというのが、対談のテーマ。
思ってほど自然と人為の境界線は自明でないかも、というの感じ。
土地を所有するというときの土地は自然物であるけれど、土地を「所有する」という行為が可能たらしめているのは、簡単に法や契約(人為)とスコーンといくのは早計でないか、ということか。
稲葉氏は、ヒュームが提唱したコンベンション(明示的でない慣行)が、自然と人為(明示的な、強制力を伴うルール体系)間に挟まっていると考えているようだ。

ところでジェイン・ジェイコブズは土地について世の中は最初から非対称(不公平)に出来ているとを言っているらしい。
同じ大きさの土地を所有しても、作物の採れ方が違ったり、金や石油が出てきたり、出てこなかったり、人々が頻繁に往来する場所だったり、誰も来ないような辺鄙なトコだったり、などなど土地に当たり外れがあるということのよう。
簡単にいえば、地の利。ただ、この地の利も永久不変のものでなく、その社会がとりまく状況が変われば、あっけなくその優位性は失われたりする性格のものであると。江戸期鎖国制度の長崎出島のようなことか。
また、個人の人的資本を自然ととらえるなら、美人とか、力持ちとか、話術に長けていることなどもその意味において「自然」なわけだ。場合によっては、鼻くそを人より遠くに飛ばす鼻息力が評価されることもあるかもしれない(ないか)。
つまり、自然はまんま草ボーボーのジャングルみたいなもんでなくて、制度の前提にもなるが逆に制度の働き掛けによって、その価値が可変するものということ。
これはポストヒューマンの話にもつながる問題で、稲葉氏が対談最後の方で触れていた「用意がないのにこの世の中に放り出された者」とは、今日的には爆発的に急増した奉公人(=半人前)、労働者を指すと同時に、整形美人やドーピングメダリストなどの果てに出現する得たいのしれない者と人間との境界問題をも内包しているわけだ。




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