奥泉光 「『吾輩は猫である』殺人事件」読み中
(新潮文庫 ISBN:4101284210)


我輩猫は死んでなかった!という着想にたった、漱石の「我輩は猫である」の続編にして探偵小説。
ゆえに語り手「我輩」は、猫である。なぜか上海にいる。
かの地で苦沙弥先生殺害のニュースを知った「我輩」は、伯爵、将軍、虎、ホームズら上海猫サロンの猫たちと苦沙弥先生殺害事件の推理究明にあたる。
推理を披露する猫たちは、苦沙弥先生とその周囲の人間についての人物造詣を「我輩」からあらかじめ聞いている。つまり「我輩は猫である」を「我輩」猫は彼らに披露したということで、猫どもの推理は、先行するテキスト「我輩は猫である」の解釈の側面を持つようだ。
推理小説のルールという側面からみれば、猫たちはフィクションである「我輩は猫である」を実世界のよう扱い、推理しているわけだが、猫たちは各々のその趣味嗜好に従って名推理を展開する、という塩梅。
我々現代人は、一般に合理的とか科学的と呼んでいる論理の積み上げ式の思考推理をよしとするが、それは単に現代人の都合、趣味でしかないのではないかとふと思った。内田樹風にいえば、賞味期限つきの思考というものではないか、と。


『吾輩は猫である』殺人事件
4101284210奥泉 光

新潮社 1999-03
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