○モダンな大阪、たこ焼きの大阪

坪内祐三まぼろしの大阪」(ISBN:4835609638)は「ぴあ」関西版に連載されたモノをまとめたコラム集。
坪内の大阪のイメージは、小出楢重宇野浩二小野十三郎などの絵画や文芸作品から浮き上がってくる<モダン都市・大阪>を意味するようだ。
コラムの趣旨は、憧れのモダン都市大阪に訪ねるという感じだったのだろう。
坪内の「モダン」の定義が曖昧な印象をうけるが、おそらく「都会的な」、「ハイカラな」くらいの意味と思う。
ところで、坪内が挙げるモダン大阪の都会人の名を私はよく知らない。が、大阪にモダンな風を感じるという気分は分からないでもない。たとえば、小林信彦の「日本の喜劇人」読めば、横山エンタツはどう考えてスタイリッシュな都会風的センスの人だったと思うし(芸人としてキメテがないという苦悩すらモダン!)、猪瀬直樹の「ミカドの肖像」などで触れられいる阪急創業者・小林一三宝塚歌劇団、百貨店、映画などの娯楽文化育成事業の先見性は、商才というよりビジネスセンスとカタカナで評したくあか抜けた手つきを感じる(本屋でいえば、ブックファーストのアノ、スッとした感じはまさに阪急のそれだ)。
谷沢永一との対談で坪内は、憧れのモダン都市・大阪への想いを率直にぶつけるが、実際の大阪は違う、と軽くいなされている。
女装の現代芸術家森村泰昌との対談も、たこ焼きとホルモンのハナシに終始し、モダンの「モ」の字も見えてこない。
つまり挿入されたふたつの在阪の両氏との対談は、モダン都市大阪がフィクションの大阪であるという現実を坪内に言い渡す役目を担っている。実際、大阪における坪内の活動は古本屋巡りと野球観戦をメインとしている。
モダンな大阪はマボロシだった。坪内当人にとっては残念な大阪探訪だったかもしれなが、読者が一緒に気落ちすることはない。坪内が妄想し憧憬した、文学テクストのなかの大阪に凛としたモダンの片鱗を本書で垣間見ることができたのだから。
まぼろしの大阪はみえないが、確固としてある。

※補足訂正

女装の現代芸術家森村泰昌との対談も、たこ焼きとホルモンのハナシに終始し、モダンの「モ」の字も見えてこない。

と書いたが、さっき読み返したら数ページ飛ばしていた。詩人小野十三郎について奇遇なエピソードを森村が語っており、吉本新喜劇80年代後半の「やめようっかな」という キャンペーンのハナシに繋がっていく。キャンペーンが功を奏し(?)、新喜劇は命拾いしたが、東京視線の「吉本新喜劇」になってしまったと森村は冷静に観察しつつ、嘆いている。
再びたこ焼きのハナシに戻るわけだが、たこ焼きはおやつとしてのそれでなく、記号化した「たこ焼き」。要するに、東京視線が好ましいと思っている大阪イメージのハナシになる。それが大阪人に転写され、たこ焼きやら阪神、お笑い文化に過剰にアイデンティファイが始まった。鶴橋の焼き肉屋は店を大きくしたが、その影で小野十三郎が写生した大阪はマボロシと化した。
おそらく、森村との対談っていうのは坪内自身のアイディアだと思うが、その勘の良さはやっぱスゴイ。

参照
「モダンを生きた作家たち」(2005年4月23日(土)〜6月5日(日))
http://www.ashiya-web.or.jp/museum/01top/f_top.html

名古屋市美術館hp,「没後70年記念 小出楢重展」( 2000年7月 15日[土] 〜 9月 17日[日)のページ
http://www.art-museum.city.nagoya.jp/koide.html

まぼろしの大阪
4835609638坪内 祐三

ぴあ 2004-09
売り上げランキング : 136,906

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

関連商品
文庫本福袋!
私の体を通り過ぎていった雑誌たち
文庫本を狙え!
物情騒然。
古本道場


日本の喜劇人
4101158045
小林 信彦

新潮社 1982-11
売り上げランキング : 62,081

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
天才伝説 横山やすし おかしな男 渥美清 私説東京繁昌記 小林旭読本?歌う大スターの伝説 ぼくが選んだ洋画・邦画ベスト200


ミカドの肖像
4093942358猪瀬 直樹

小学館 2002-04
売り上げランキング : 158,212

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

関連商品
土地の神話
欲望のメディア
日本人はなぜ戦争をしたか?昭和16年夏の敗戦
天皇の影法師
黒船の世紀?ガイアツと日米未来戦記


漫才作者 秋田実
458276391X富岡 多恵子

平凡社 2001-04
売り上げランキング : 190,005

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

秋田実もモダンな人だと思うな。