○POSレジの死角

内田樹のブログ 2004年12月20日「車は天下のまわりもの」より引用。
http://blog.tatsuru.com/archives/000604.php

そして、真のリアリストはいわゆる「リアル」といわゆる「ファンタジー」のあわいが「リアリティ」のすみかであることを知っている。
私が『他者と死者』という本に書き連ねたのは私の「ファンタジー」である。
でも、この「ファンタジー」は長い歳月をかけて私の中に根を張ったものであり、私という生身の人間はこの「ファンタジー」をビルトインしたかたちでしかもう成り立たない。
この本で私は「他者」について書いたのだが、私の「他者」は哲学的な概念ではなく、レヴィナス老師であり、多田先生であり、亡き父であり、東京で元気に遊んでいるるんちゃんである。この方たちとのかかわりは私にとって「リアルなファンタジー」なのである。

タツルの「街場の現代思想」(ISBN:4757140754)発売当初、その平積みの上から三冊目くらいをさっと引っこ抜いてレジに向かう会社勤め風のいでたちで、24、5歳の女性を往時の青山ブックセンター新宿ルミネ1で見かけたことを思い出した。
別段人文書を好んで読むのはムサい文系男子学生だと決めて掛かっているわけではないけれど、それだけを買いにに青山ブックセンターに寄った風の、彼女の行動はちょっとビックリした。
まるで鉄道マニアが鉄道ジャーナルを発売日に買いにくるような、目的買い風に見えたから。
上記の引用したタツルのことばを借りれば、タツルの想定する読者(ファンタジー)が、「会社勤め風のファッションの20代半ばの女」という生身の身体を伴って私の目の前に立ち現れたということか。
POSレジじゃ全然見えてこないのが、そんな「リアルなファンタジー」(=他者)なんだろうな。
POSレジの役割じゃない、か。


街場の現代思想
内田 樹

NTT出版
2004-07
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