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○2004年 読書の収穫
◇総評
奥田英朗が直木賞を獲ったので良かった。
唐突に山口瞳ブームが来て、その流れで重松を見直すことになった。
色眼鏡は、読書ライフとっていちじるしくマイナスであると痛感した。だから、大沢在昌や堂場瞬一も躊躇なくどしどし読こうというのが、来年の抱負だ。
あと、インターネットがようやく私の読書ライフに果報を持たし始めたことも記しておきたい。朱雀さん(id:sujaku)のコンビニグルメ研究所のおもしろさは私の紙媒体への偏愛を凌駕した。嗚呼ネットの神さまに、ひたすら感謝!
また、私の読書指針にネット上のブックレビューの影響が大きくなってきた。退屈男さん(http://taikutujin.exblog.jp/)とかねたくさん(id:kanetaku)のレビュー群から度々読書的啓示を受けている。おふたりには、この場を借りて「さんきゅー」とマクドナルドの店員風にお礼するとともに「今後もよろぴくネ」と申し添えておく。ホントに。
1、山口瞳「江分利満氏の優雅な生活」
(新潮文庫 ISBN:4101111014)
江分利満氏は、山口の分身と往時サラリーマン風俗の人格的カタログという性格を併せ持つ。これはカッコイイ。
前に書いたレビューを参照してな。
http://d.hatena.ne.jp/yasulog/20040904
2、重松清「スポーツを「読む」記憶に残るノンフィクション文章読本」
(集英社新書 ISBN:4087202682)
奇貨居くべし。将来のために一見無駄なことに大きな投資をすることを指す。
「スポーツを読む」を私は熱烈絶賛した。
http://d.hatena.ne.jp/yasulog/20041205#p1
だから私は、重松の今後の活躍に大きく期待をしているということだ。
3、木下直之「世の途中から隠されていること 近代日本の記憶」
(晶文社 ISBN:4794965214)
肖像画や彫像を眺め場合、二通り見方がある。ひとつは対象が誰かに注目する見方。もうひとつは、作者が誰かに着目するそれ。
後者は美術鑑賞的な眺め方で、作品の評価と対象と似ているか否かは全く関係ない。
アウトサイダーズアートが珍重される背後には、作者が誰かに着目するが眺め方の暴走があるはずだ。
4、殊能将之「キマイラの新しい城」
(講談社ノベルズ ISBN:4061823914)
バカミスをバカにするなかれ。バカミスを楽しむにもある程度のミステリー教養は必須だ。ただ、ある種の好事家的な読みは、読書全般に必要な常識やある種の勘の良さ蔑ろにしているのではないか。
そういう意味で「キマイラの新しい城」はバカミスでない。バカミスを空気投げする胸のすく読み物だ。
5、クリストファ・プリースト「奇術師」
(ハヤカワ文庫 /古沢嘉通 訳 ISBN:4150203571)
手品が巷でブーム再燃中の昨今、コロコロコミックで手品マンガが画策されてもおかしくない。その際、「奇術師」の大ホラの吹き方が参考になるはずだ。
6、猪瀬直樹「ペルソナ―三島由紀夫伝」
(文春文庫 ISBN:4167431092)
Vシネで映画化希望。
7、阿部和重「ニッポニアニッポン」
(新潮文庫 ISBN:4101377243)
大変カッコイイ。
まえに書いてレビューを参照して。
http://d.hatena.ne.jp/yasulog/20040804#p1
8、浅羽通明「ナショナリズム 名著でたどる日本思想入門」
(ちくま新書 ISBN:4480061738)
ナショナルな気持ちを形作った大衆文化として、司馬遼の小説や本宮ひろしのマンガを採り上げて点が、カルスタのコチコチ頭とは雲泥の差。
悶々とした若者は「アナーキズム 名著でたどる日本思想入門」(ISBN:4480061746)から読むと吉か。
司馬遼太郎や新しい教科書をつくる会が嫌人は、小田中直樹「歴史学ってなんだ?」(ISBN:4569632696)を読んで武装せよ。
9、加太こうじ「紙芝居昭和史」
(岩波現代文庫 ISBN:4006030967)
宮崎駿でアニメ化できないか。「紙芝居昭和史」には、ファンタジーな風合いがある。また寓話的なパラレルワールドに思える。盤石に思われた明日はいともたやすく崩れ、紙芝居のつかのまの繁栄はあっけなく幕切れた。
10、摩耶雄嵩「名探偵 木更津悠也」
(光文社/ カッパ・ノベルス ISBN:4334075649)
摩耶雄嵩の作風は、大水のときに出来上がった池ようなものという印象があった。
ひさびさに池に出かけると、温泉になっていた。頻繁に足が向く予感がする。