関川夏央「昭和が明るかった頃」
(文春文庫 ISBN:4167519100

イルカショーを見るとなぜか泣いてしまう。
イルカのような利発な動物が人間の都合に付き合って様々な運動をやってのける姿は、とてもけなげに映る。そしてそのけなげさが私の涙腺を刺激するのだ。もっと踏込んでいえば、イルカショーという中途半端な興行で、万物霊長たる人間がイルカとの交流に満足している現状は、私はとても恥ずべきだと思う。
地球の未来を考えるパートナーとしてイルカたちと手を結ぶことが「絵空事」でしかないことは、太ったオバサンになった吉永小百合を想起できないことと似ている。
凛した清楚なイメージの女の子が太ったオバサン女優になりうることは頭では承知できてもが、どうもピンとこない。このピンとこない人々を「サユリスト」と呼ぶのではないか。彼等は女優としてのキャリアアップよりも、いつまでも清楚で美しい表層を望んだ。持ち前のバカ正直的な誠実さでそうしたサユリストたちの我が侭な気分を真正面から受け止めたのが、吉永小百合の人生ではなかったか。そうした彼女の生真面目さと裏腹にサユリスト大半は、(マリリン)モンロー主義者でもあり、隠れ巨人ファンであり、営業2課課長であったりする。夏はビール党で冬は焼酎お湯割党に鞍替えし母校ラグビー部をテレビで応援する。でっぷり突き出した腹をさするながらウコン茶党に入党することも年に2、3回ある。
大衆的なお気軽さが女優、吉永小百合のありうべき体型やキャリアや映画以外のメディアで活躍するときに垣間見せる頓知のキレを永遠に封印した。

私は、イルカの化身が人間の男に裏切られ、烈火の如く怒り裏切り男を殺す、というシナリオを構想している。むろん主演女優は小百合の他にいない。


昭和が明るかった頃
関川 夏央

文芸春秋
2004-11
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