内田樹平川克美「東京ファイティングキッズ」
柏書房 ISBN:4760126252

変わったおじさん同士の往復書簡集。一方は内田で、もう片方は平川克美というおじさん。
著者紹介にいれば、平川はBusiness Cafe ,IncのCEOで、リナックスカフェジャパンの社長という起業家精神にあふれた御仁のようだ。内田とは小4以来の付き合いだが、それは文芸春秋本誌で見掛けるような「我ら同窓生」的なものではないようだ。いわゆる腐れ縁というヤツだろう。ダウンタウンの松本が幼なじみで放送作家の高須とラジオをやっているが、アレのようなもんか。
松ちゃんのラジオのように友人とのおしゃべり風のトークやこの本の、メールのやりとりを他人の私が聴いたり読んだりし、それが「面白い」のはよくよく考えるとよく分からないなとフト思った。
そんな折に、内田のレヴィナスを初めてお宅訪問したときのエピソードは示唆的だった。
レヴィナスはそのとき奥さんが入院していて自宅でひとりで暮らしていた。で、じゃ一杯やりますかってハナシになる。内田はコワント−ルを持って訪問したのだが、レヴィナスは台所から飲みかけのコワントールとグラスを持ってきたというハナシ。以下184ページより、引用。

 まあ、どうでもいいような話ですけど、ぼくがレヴィナス先生にお会いしたときのことで、いちばん印象に残っているのは、この「台所にたって・・・」というところなんです。
 ホスピタリティというのは「飢えてる人に自分の口にあるパンを与え、渇いている人に自分がのみかけの水を与えることだ」いうことうぃレヴィナス先生は書いておられるのですけど、慣れないフランス語での会話で緊張してへとへとになっていたぼくにレヴィナス先生が注いでくれたコワントールはまさに「渇いている人」への「飲みかけの水」を与えてくれるような、忘れられない甘露でした。

おそらく内田の著作に共通する「やわらかさ」は、レヴィナス直伝のホスピタリティのなせる業なのかもしれない。「絶対」という立場を内田が感覚的に嫌うのも、おじさんのホスピタリティはそんな柔なもんじゃないという自負の裏返しのよう見えてくる。だから、「期間限定の思考」とは、彼の世の中へ彼の構えであると同時に厳しい自戒でもあるのだと思った。おじさんは、深いな。
余談だが、カバーをとると表紙に小4のころ(?)の著者ふたりに会える。


東京ファイティングキッズ
内田 樹 平川 克美

柏書房
2004-09
売り上げランキング 3,237

Amazonで詳しく見る
   by G-Tools