yasulog2010-11-06

○ウニー・ルコント監督「冬の小鳥」感想 - アボジ、反抗、遍在する善意


アボジ(お父さん)と買い物。一張羅の洋服。靴も新調。外食。盆と正月が一緒に来たみたなキラキラの楽しさ。オボジにお酌。「アタシも飲む」と言うとアボジは黙って注いでくれた。楽しい!楽しくてしかたない。十八番のアノ歌を歌っちゃおう。自転車二人乗り。アボジの背中。
アボジとお出かけ。道中、足をぬかるみにとられる。嫌な予感。
韓国映画「冬の小鳥」は、1970年代韓国舞台にカトリック系の孤児院に預けられた9歳の女の子・ジニの絶望と期待を描いたもの。監督は韓国系フランス人のウニー・ルコント。本作は彼女自身の実体験をベースにしたものらしい。
韓国映画ということでボクは荒削りでエネルギッシュな作風を思い浮かべるたが、「冬の小鳥」は全く違った。おおむねガーリー基調。院内の生活と「我が儘」ジニの不適応ぶりをさらさらと描いていくのだけど、「アボジ」をキーワードにした仕掛けが心憎い。
エリ・エリ・レマ・サバクタニ(神よ、なにゆえ我を見捨てたもうや)。教会の説教シーン。父なる神を「アボジ」と神父は言い、ジニはキリストの最期の言葉に自分のアボジを思ってしまう。コレがボディブローのように後々効いてくる。
アボジはきっと迎えにくる!
現実はそうでないと告げている。が逆にアボジを信じたい気持ちはますます強くなっていく。シスターたちを困らせてばかりの「我が儘」ジニなんだけど、彼女がまんまキリストに見えてくる!!な、な何じゃこりゃああぁぁ!!
ラスト。ジニはフランスに住む里親の元に旅立つ。車の後部座席。振り返ると、歌いながら見送る院のみんなの姿。ふとアボジの背中を思い出す。その背中を自分が感じていたように、アボジも背中の自分を感じていたのはずだと。
たぶん監督のウニーは自身の分身ジニを主人公に据えることで、かつての自分のまわりにあった善意にお礼を言いたかったのかも。都会的な洗練と律儀さのコラボ。「冬の小鳥」はキュートな感謝のカタチだ。本作は芸術家の胸毛式尊大な態度や批評家の髭流の小賢しさとまったく水と油の作品だ。
院の子たちは就寝前に花札占いをしていた。未来を告げる引き札に嬉々とする孤児たちは、じつは院外のボクらそのものだ。だからボクらが支えなくてはならない。メガネかけて3Dとか言ってる場合じゃないっ。神田神保町をめざせ。岩波ホールだ。「冬の小鳥」の<奇跡>を体験せよ!


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ポール・ニューマンのコレを彷彿。


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「冬の小鳥」観た後だと、「拝天」の渥美清もキリストっぽいなぁ。