島耕作になれなかった運と不運 ー 真実一郎「サラリーマン漫画の戦後史」雑感。
(洋泉社 ISBN:9784862485588)


クラスの文集。ボクが小学生頃「将来の夢」というコーナーに、プロ野球選手とか総理大臣、漫画家という定番に交じって「社長になる!」とか書く奴が案外いた。大それたこと書くなと思った。
友だちのヒデノブはなんて書いたかと見ると、
「ガス屋になりたい」
とあった。
ノブんちは稼業がガス屋だった。つまり父親の仕事を継ぐと宣言したわけだ。それも社長の意味だった。
今の子どもたちは、一体どんな将来像を描いているのだろろうか?
著書「丸山眞男の時代―大学・知識人・ジャーナリズム」おいて竹内洋は、一流のインテリになれない自分に対する落胆と丸山への妬みの噴射という高学歴な大衆の気分がニッポンの舵取りに影響をおよぼし、結果的に丸山は惨敗したと喝破してみせた。
その文脈でいえば、本書はバブル崩壊後「島耕作」的社内栄達から見放された大衆の落胆と模索を漫画のサラリーマン像のなかに見いだす試みといえる。
兎に角、バブル後の「サラリーマン漫画」群の登場人物の体現する仕事観を「島耕作」と照らし合わせ、その距離やズレから、リアルなサラリーマンの夢や希望の推し量る手際は見事。実際「サラリーマン金太郎」、「ボーイズ・オン・ザ・ラン」、「いいひと。」、「働きマン」、「ぼく、オタリーマン」、「サラリーマン田中K一がいく」等など、ポストバブルは百花繚乱的なサラリーマン像を育んだことは間違いない。
つまり「島耕作」効用の衰えは、漫画産業にとって経済的には死活問題であり、表現的には好機到来だったのだ。そしてこのマンガ的仕事観の多様な提示は、ニッポン社会にとってプラスでこそあれ、マイナスってことにはならないだろう。
会長編、相談役編と「島耕作」は、会社内キャリアを上り続けるのだろうか?年賀状の差出先がほぼ仕事つながりでは空しくないか。己のキャリアを全部投げ捨て、裸一貫プロゴルファーに転身を決意する「島耕作」ってどうだろ?(息子くらいの年齢のプロ選手との真剣勝負!)「パティシエ 島耕作」、「海人(うみんちゅ) 島耕作」なんってのもいイイ。
ボクは、そういう耕作を見てみたい。


サラリーマン漫画の戦後史 (新書y)サラリーマン漫画の戦後史 (新書y)
真実 一郎

洋泉社 2010-08-06
売り上げランキング : 111961
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る
by G-Tools


丸山眞男の時代―大学・知識人・ジャーナリズム (中公新書)
丸山眞男の時代―大学・知識人・ジャーナリズム (中公新書)竹内 洋

中央公論新社 2005-11
売り上げランキング : 145220

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

関連商品
教養主義の没落―変わりゆくエリート学生文化 (中公新書)
丸山眞男―リベラリストの肖像 (岩波新書)
大学という病―東大紛擾と教授群像 (中公文庫)
立志・苦学・出世−受験生の社会史 (講談社現代新書)
丸山真男とその時代 (岩波ブックレット)