ユタ、バリ3、孔子様  ー 湯浅邦弘「諸子百家」メモ
(中公新書 ISBN:9784121019899)


高校以来の友人Mは設計士。東京の事務所で修行を積み、バブル崩壊とともに帰郷。今や1級建築士様。景気どん底な地方いおいてまずまずの威勢を堅持しているようだから、頼もしい。
いつだっかたか帰省中、高校時代の仲間との酒の席でMが、「ユタに仕事を邪魔された」と腹立たしげに吐露していた。
当時Mは、那覇市内のある住宅を図面を請け負っていて、その図面を施主自身は喜んでくれたが、施主が昵懇のユタが風水的な難くせをつけたため、設計案は御破算にされたのだとか。。。
「災難だったなぁ」と俺はMに同情の言葉をかけたが、内心は近代沖縄におけるユタの健在ぶりにニンマリしていた。
ユタとは、沖縄の民間霊媒師をいう。たいていは女だが、まれに男のユタもいる。俺自身神秘体験とは無縁なのでアレだが、ユタはなりたいと思ってなれるものではないようだ。ユタは神によって選ばれ、霊媒となるっぽい。つまり、神さんは、こっちの人間サイドの意思はお構い無しに、向こう側の都合でズキュンという感じで降りてくるらしい。
カミダリー(神垂れ)とは、その降り際の霊媒的トランス状態をいう。けれどカミダリーだけではユタにはなれない。カミダリーが頻繁でなければならない。ユタは必定、サーダカー(精高い)でなければならない。サーダカーとは、カミダリーしやすい体質をいう。ケータイでいうところのバリ3状態。神さん受信アンテナ常時三本って感じ。

さて、 湯浅邦弘「諸子百家」だが、この新書は、儒家墨家道家、法家、兵家といった春秋戦国時代の中国思想を読み解き、吟味検討するという趣向。いかにも教養新書的な中庸さだが 「新出土資料」をふまえた点に、面目躍如があるようだ。
「新出土資料」とはなにか。1972年の『孫子兵法』『孫臏兵法』『六韜』などの古代兵書がまとまって発見された「銀雀山漢墓竹簡」とか、90年代に発見された郭店楚簡・上博楚簡といったものがそれなのだが、俺の孔子興味にこの「新出土資料」はあまり関係ない。
で、俺の関心はココだ。74ページより引用。

・君子に三畏有り。天命を畏れ、大人を畏れ、聖人の言を畏る。(『論語』李氏篇)
君子には三つの畏れるものがある。天命を畏れ、人徳者を畏れ、聖人の言葉を畏れる。
・命なるかな。斯の人をして斯の病有り。(雍也篇)
天命であろうか。この人が、このような病になろうとは。

湯浅は、ここで孔子の「天」なる概念がどういったものかを分析しているわけが、それによれば、孔子にとって天とは、「自らを支える信頼の源であるとともに、人為を越えた畏れるべき存在だった」とする。
つまり、孔子の天と己の紐帯を基盤とした主張は、既存の天子思想(命を下された地上の偉大な王が、天の子としてこの世を統治する)に対する強烈なアンチテーゼだったかもしれないわけだ。というか、これじゃ、孔子が思想を成したと言えるかどうかもアヤシクなってくる。
ひょっとして。。。。孔子ってサーダカーだっかのか?
つまり、孔子は御神託のたまう霊媒だったのではないかってこと。むろん湯浅がそう言っているというわけじゃない。ま、中華文化圏の辺境、沖縄のスピリチュアル文脈から眺めると、孔子様も馬の骨っぽさが垣間見えて面白いな。




諸子百家―儒家・墨家・道家・法家・兵家 (中公新書)
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