○懐かしがりとじゃがいも


帰宅途中、本屋へ寄った。文庫売り場をぶらぶらし、新刊台のちくま文庫や文春を物色してると、
「へぇジョン・ケージかぁ、なつかしいー」
と俺の横で、三十前後の痩せた男が、「ジョン・ケージ著作選」を手にしながら唐突に声をあげた。
結構デカい声で懐かしがってるから、もしかしたら、ジョン・ケージの縁者か弟子筋かと思った。が、そうではないこと直ぐ判った。懐かしがり氏にはツレがいて、そのツレの男に向けて言うともなく呟くように「ケージ、なつかしい」と言ったら、思いの外、声がデカくなったという感じの場面だった。
しかし、ツレの男はあまりジョン・ケージに興味がなさそうで、リアクションらしいことをクチにするでもなく軽くシカトしていた。
我らが懐かしがり氏は、ヤワな精神というか心の機微というものがある意味ぶっ壊れているっぽいのでシカトくらいでヘコたれる様子は微塵もなく、ちくま文庫新刊にサヨナラを告げると、加藤周一の追悼ミニフェアに足をとめた。そして言った。
加藤周一が死ぬ時代か。。。」
懐かしがり氏、もはやツレない相棒のリアクションなどどうでもイイようで、傍にいる俺に聞えるか聞えないかの声で、世を儚かなんだ。
吟遊詩人か!
自由すぎるわっ!
つーか、加藤周一って大正生まれだよ、もう充分生きたっつーの!!
俺は書店員時代を回想した。朗読クン、ウサマ・ビンラディン!と絶叫するタリバンおじさん、ミスクレーマーことオオハシ先生等々。あの猛者振りのお客(買わないけど)がいまでもトラウマになって海馬から消せない。連中も確かにヘンだったけど、「加藤周一が死ぬ時代か」は、ないゼ。アナクロすぎっ。アナクロなアラサーかよ、アナサーか。
ふと、ムシの知らせか風野真知雄 「黒牛と妖怪」 が平積みが目にとまった。否、おれの鋭い眼光が帯にある「新人物文庫」の文字を、びゃびゃびゃあぁぁぁっーと射抜いたと言う方が、そのときの時間のながれを的確に捉えているだろう。
そんで、新人物文庫?あ、そうそう、新人物文庫っていえば、永倉新八のアレを買わねばならないじゃないかと思い、「黒牛〜」近辺を探すが、「新撰組顛末記」が見当たらなかった。新人物文庫は「黒牛〜」が積まれてるのみだった。
ちょうどそこへジャガイモみたいな店員が通りすがったので訊いた。
他のラインナップが未だ届いてないとジャガが即答。
なんだか新人物往来社、文庫創刊初っ端からトラブったようだ。何も買わずじまいに店をアトにした。



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