○空っぽのキツネの巣穴


通勤の友は菊地成孔 ・大谷能生東京大学アルバート・アイラー ―東大ジャズ講義録・歴史編」。
この本、実際の講義録をベースにしたモダン・ジャズを中心としたその前後の音楽のながれを、楽理的研鑽をふまえつつ、大谷が菊地の口まねで歴史語りするという離れワザなのだが、フリー・ジャズ時代を検証的に振り返る第七章「フリー・ジャズとは何からフリーだったのか」が抜群に面白い。
そんときマイルスは何を考えていたか?
この本の裏テーマってそれかなってここまで読んでふとおもった。ジャズっていうジャンルのなかでいろんなブームがあって、それを大谷・菊地コンビは歴史的につなげる試みをしてるわけだけど、距離感をつめて共感的に語っているのはマイルス・デイヴィスだけかな、と。
まあそのことはしめくくりで言うとして、オーネットのハナシ。オーネット・コールマンの「The Empty Foxhole」ってアルバムがの自由がすごそう。オーネットはアルバム同タイトルの曲でドラマーに自分の息子を起用してるとか。まあ、親子演奏なんてジャズ業界結構ありそうだけど、コールマン親子の場合息子が若すぎっ。
なんと10才(小4)!足がバスドラのペダルにとどかんよ。
まったく関係ないが、チューリップバブルってやつを思い出した。日本の江戸時代だったころ、海のむこうのオランダでは道楽者の間
のチューリップ人気に端をはっしたチューリップ球根投機のアホな盛り上がり。
当然はじけるわけですごい痛手が残るわけだけど、何でも投機対象になるし、それがバカ高騰することもあるのがバブルだから、後知恵で「だってチューリップの球根でしょ?」ってツッコんでも全然意味ない。
そのでんでいけば、コールマン親子の共演を「親ばかのデタラメ」と突っ込むのもなんかイマサラ感ただよう。
まあ、そのへんは脱線しつつキモをはずさないのが大谷の菊地口まね(ややこしい)なわけで、親バカオーネットを単に嗤うのではなく、オーネットというジャズ奏者の特質と彼が時代に与えたインパクトみたいなものをコミコミでこのエピソードは語られる。
で、当時オーネットの特質をバシっと見抜いていたのはマイルス・デイヴィスくらいだったと大谷・菊地コンビの見解じゃないかな。
っていうか、バップ以降か、マイルスはずっと時代の先端にいたんだね。その息のながさは彼がまわりの演奏をとおして時代のうねりのようなものに乗っかりつつもそれを批評的に眺め、次、はいその次と波を渡ってきたってことなのかも。マイルス・デイヴィスは希代のジャズ奏者であると同時に当時一流の批評家でもあったということか。
いやあ、おもしろい。これで630円はお値打ち。文藝春秋さん、文庫化ありがとう。


東京大学のアルバート・アイラー―東大ジャズ講義録・歴史編 (文春文庫)
東京大学のアルバート・アイラー―東大ジャズ講義録・歴史編 (文春文庫)菊地 成孔

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