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○杉山茂樹「4-2-3-1―サッカーを戦術から理解する」(ISBN:9784334034467)読了。
サッカー試合直前、あるいは中休みのミーティングで監督は、選手に何を伝えているか?
十中八九、戦術についてなにかを喋ることは分かる。けど、ぼくのなかでイーメジされるサッカーのミーティング風景は具体的なイメージを結ばずアイマイモコだった。
これが野球なら、解説者が経験者の立場から場面ばめんでの監督の采配、バッテリーの配球、当たればホームラン的な強打者の意外な弱点など懇切丁寧に語り、これがベンチワークの実際を補完してくれる。またバレーボールでは作戦タイム中、集音マイクを突き出し、監督の指示を拾う方式でお茶の間の観戦者は居ながらにして監督の指示を耳にする。
ミーティング中、サッカーの監督は何を喋るのか?
陣形とその意図。相手チーム攻撃の傾向と対策。各々の選手のみるべき相手選手の確認、あるいはその受け渡しのチェック等など、ざっとそんな内容だとはうすうす知っている。うすうす知ってながら、ぼくの想像するサッカーのミーティングはふわふわしたままだった。
杉山の「4-2-3-1」はそんなぼくのサッカーミーティングイメージを一挙に鮮明化させてくれた。
試合直前、あるいはハーフタイムのサッカー監督は板書するのだ。たぶん。板書で布陣を描き、それをもとに攻守のチェックポイントを選手たちに伝えているに違いない。
野球もバレーボールもポジションがある。ポジションとは役割といってもいい。けれどサッカーは流動的だ。流動的だからこそ、サッカーの監督は布陣とその意図を明確にプレイヤーに伝えることが必要なのだ。
Aというチーム、Bというチーム。対戦の際Aに立ち向かう布陣とBへのそれが全く一緒であることはありえない。FWは二人か単独か、あるいは三人か。相手DFは背が高いかチビか。芝はボールをよく転がすかどうか。さまざまな要素を念頭にいれ、監督がやることは布陣を考えることだ。そして布陣は試合毎に異なる。一見同じにみえても、そこに込められた意図はその都度違う。当然約束ごとも違ってくる。だから板書で布陣を描き、その意図を試合のたびに伝えなくてはならない。
布陣を描く。サッカー監督が試合にのぞむ際、もっとも重要なシゴトがそれだと言ってもさしつかいないだろう。
本書「4-2-3-1」でぼくは、サッカーの布陣について様々なことを吸収した。1−0の勝利を望むイタリー気質。中盤の省略。「ボールが頭上を超えていく」という名波のことば。ヒディングが顔に似合わず知将であること。「ユーティリティー」でなく「ポリバレント」と言ったオシムの意図。かつて真ん中でプレーしていた水野を右にもっていった意味。代表戦での山岸の位置どり。この本で書いてあると以前から知っていたこと、ぼくのなかのバラバラな情報の断片たちがそれぞれの場におさまり、サッカーというまばゆい知恵に結晶した。