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○ヨシオと若大将
片岡義男「ホームシック・アイランド・ボーイ」(「ターザンが教えてくれた」収録)を読む。
ハワイで式を挙げるため機上にある「ぼく」。ストーリーは、「ぼく」と「そろそろ中年といっていい年齢の」スチュワデスとの軽妙な会話のやりとりで始まる。朝ごはんを頼むが、それはないとスチュワデス。じゃあと、代わりにビールを注文する「ぼく」。やがてハワイに到着し機を降りる際、くだんのスチュワデスをみつけ、
「朝ごはんをありがとう」 と、ぼくは、からになったビールの缶を振ってみせた。 微笑しながら、彼女は首を左右に振った。 そして、 「朝ごはんはアルミの缶なんかに入ってないわよ」 と、言った。 「やっぱりそうだったか」 と、冗談のしめくくりとして軽くおどろいてみせるぼくに、 「イート・ソリッド(ちゃんとしたものを食べなさい)」 と、忠告してくれた。
こんな会話のやりとりが、「ぼく」にとって日本語の外へ出る準備体操みたいなものかもしれない。
到着後、「ぼく」は現地ハワイの日本人コミュニティを懐かしそうに散策したり、かつての恋人(現在バツイチ独身)に電話をかけたりする。どうやら「ぼく」はちょっぴり感傷的になっているようだ。
花嫁は後日ハワイにやってくる予定で、彼女に会いさえすればまたいつもの自分に戻れると、「ぼく」は半分期待し半分残念がっている。新婚生活、新たな出発、期待と不安が入り交じる気持ち。けれど、花嫁になる彼女の存在が彼に盤石な安心をもたらしていることは確かで、このセンチメンタルな気分は結局その安心ゆえの「ぼく」の感傷ごっこなのかもしれない。
親戚の家で夕食後「ぼく」がギター弾きながら歌う場面でハナシはフェードアウトする。
ギターなんて小道具はきわめて加山雄三の若大将的だが、「ぼく」のギターにはロコ的な哀愁がある。それは若大将のギターにも、桑田圭祐の夏のおわりをうたう歌にもないものだ。
「彼女の演じた役」で原節子主演作品を語ることから始まった片岡義男の日本映画についての観察と意見のあゆみは、去年刊行された「映画の中の昭和30年代」で成瀬映画をとりあげ、この2月出た「一九六〇年、青年と拳銃」では赤木圭一郎を俎上にのせた。
おそらく義男は、今後も日本映画についての観察と意見を発表するだろう。その際、加山雄三の若大将シリーズは、義男にとって選択肢のひとつとなるだろうか。たしか加山は、コカコーラのCMで初めてラッパ飲みを見せた日本の俳優だ。加山は当時のティーンや大学生連中に新しい余暇やライフスタイル、音楽シーンなど教える兄貴な存在だったと思う。加山という窓越しに、当時の若者は何を欲望したか?あるいは加山という窓に限界があったとすれば、それはどんなことか?
私はいま猛烈に義男の若大将・加山雄三についての観察と意見が読みたい!
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