○かまぼこの歌を聴け


アジア的な喧噪漂う那覇の市場界隈、かまぼこ屋の主力商品は断トツでチキアギーだ。チキアギーは魚のすり身にごぼうや人参などのこまいのをまぜ、油で揚げたもの。内地で言うつけ揚げ、さつま揚げのこと。
「ばくだん」とよばれるチキアギーがある。ゆで玉子やおにぎりをすり身でくるんで揚げたものをいう。ゆで玉子のばくだんは広く県民に愛されてきた。たとえば沖縄の弁当屋的には客の気を惹く定番アイテムだ。おにぎりのばくだんは以前はマイナーな存在で、ここ最近にわかに注目をあつめている模様(参照)。
カステラかまぼこ(参照)も捨てがたい。魚のすり身に溶き卵を混ぜ、函で蒸したもの(たぶん)。引き出物用のカステラかまぼこは、漫画みたいな鯛のかたちをしてた(参照)。
上京してかれこれ二十年近くなる。東京はとても便利で活気のある大都会だ。情報もいっぱいある。本屋さんなんかは千坪をこえる店がいくつもある。コレが切磋琢磨してるってんだから田舎とは大違いだ。美術館もわんさかある。年がら年中展覧会をやっていて、本物に間近に接せられる。東京の大丸であったジョアン・ミロ展で爆笑し、渋谷Bunkamuraパウル・クレー展で微笑み、池袋西武でのバウハウス展で目頭を熱くした。
けれど、東京がひとつ残念なのは、沖縄県民にとって当たり前のかまぼこ屋が存在しないこと。むろん東京にだって「沖縄」はある。ゴーヤチャンプルーを出す居酒屋もある。あるコンビ二ではミミガー泡盛もおいている。スパム的なものもダイエーなどで手にはいる。だけど、かまぼこ屋はない。チキアギーがない。カステラかまぼこについて語れる者がいない。友人たちと楽しく呑んでる席、つまみのさつま揚げを口にするとき、自分の声と引き換えに脚を手に入れた人魚姫的寂寞感がふと私をおそう。チキアギーの不在!大げさな言い方をすれば、沖縄かまぼこは私のふるさとであり、青い鳥だ。


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