佐藤優「国家論―日本社会をどう強化するか」読み中。
NHK出版 ISBN:9784140911006)


「国家論―日本社会をどう強化するか」は、金持ちと貧乏人の貧富格差拡大や食品偽装問題に代表されるような企業の蛮行の要因を、純化する資本主義の傾向にあるととらえ、いかにしてこの流れを運転していくか、その処方箋をマサルなりに示したレポートのもよう。
マサルは、処方箋の根本にマルクスの「資本論」を掲げる。しかし「資本論」を生のまま服用しても効き目はは期待できないとする。「経済原論」を著した宇野弘蔵の考えをもとに「資本論」を読む直すこと、それが処方箋のレシピのようだ。
じゃ、なんで「資本論」なのか?その説明として迂回的に預言者と予言者の違いについてマサルはひとくさり語っている。
いわく、予言者は占い師で、預言者は神の意志の言葉を預かっている者の意味。今風にいうと状況分析屋、アナリストであると。
で、元来キリストには、王(支配者)、祭司、預言者の三つの権能があった、とマサルは前置きし、教会が預言権能をキリストからかすめ盗り独占したのがカトリックで、聖書のなかに預言があるとみたのがプロテスタントと説明する。
ところがロシア正教では、異常行動をとる者が預言者解釈される伝統があるらしい。すると、おなじキリスト教の宗派なのに、預言はキリストの権能という前提をロシア正教は共有していないのか?
31ページより引用。

だからロシアでは、金持ちに石を投げたようなただの乞食が、聖人として公式に認められる場合がけっこうあります。そういうところに、預言とか神の知恵を見ていく発想なんですね。ここには、否定神学が生きています。制度的に固めてしまったところの残余の中に真理があるというような発想があるのわけです。

東方的!思わず叫びそうになる物言いだ。中沢新一と意気投合しそうだよなよ、マサル!って思ったりするが、とにかくマサルマルクスにもロシア正教的な、制度的に固めたところ残余の中に真理があるという発想があると認識しているようだ。
32ページより引用。

われわれの関心は、国家にあるのですが、ここでは社会の構造を解明することによって、その解明から漏れてしまう部分に国家の特徴を求めるという方法をとりたいのです。これは否定神学の応用です。「資本論」を取り上げる理由も、それが社会構造を解明するのに優れた言説を提示しているからです。

上記引用部分はなかなか巧妙。マサルは暗に、国家と社会はひっついてるが、同一のものではないということ、さらに資本主義的なものは社会のなかに含まれるということを匂わしている。


国家論―日本社会をどう強化するか (NHKブックス 1100)
国家論―日本社会をどう強化するか (NHKブックス 1100)佐藤 優

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