○「反転」、ビートたけし主演で映画化希望。それにしても田中の眉毛、どうにかならんか!


田中森一「反転 ―闇社会の守護神と呼ばれて」(幻冬舎  ISBN:9784344013438)を読んだ。
著者の田中はヤクザやその周辺で暗躍する連中とつながりのある弁護士。
いわゆる「ヤメ検」ってやつ。貧乏な家庭に育ち、苦学して司法試験を一発合格、検察の道を選ぶ。顔に似合わず検察官時代はなかなか優秀だったもよう。大阪地検特捜部で頭角をあらわし、東京地検特捜部へ抜擢される。だが、組織としての検察のあり方に疑問を感じ、モチベーションが切れて退官。バブル期に水のあう大阪で事務所構え、あまり素行よくない連中の弁護で辣腕をふるうようになる。
しかし、あの許永中が絡んだ石橋産業手形詐欺事件において、許の法律面での指南役だったことから田中自身も逮捕起訴され、懲役3年の実刑判決をうける。で、もっか上告中。
波瀾万丈な人生は圧巻で、アウトロー文庫という異形のラインナップを擁する幻冬舎からの刊行も合点がゆく堂々たる「経歴」だ。
一見「私の履歴書」風の「反転」は、朴訥とした平易な文章でつづられている。しかし、このような回想録にありがちなあやふやさや重複記述は微塵もない。さながらピラミッド式の構築物のように頂点を目指して文が積まれている。
田中が意図するピラミッドの頂点は明確だ。それは検察という組織が正義の味方でなく、現体制維持のための安全装置にすぎないという事実を白日のもとにさらすことに他ならない。
今、俺は「事実」と書いたが、それに異論があるご仁もあるだろう。けれど、彼のあゆみをふりかえることで、俺は検察の習性を知り、その習性を突いた田中の弁護活動の手管を読むにつけ、その検察の正義とは、政治的な正義でしかないことをつくづく思い知らされるのだ。そういう意味で本書は緻密で用意周到な田中の自己弁護本でもある。
手にとる前、俺は幻冬舎サイドが田中に本を書くように打診したんじゃないかと勘ぐっていた。けれど、そうではないのかもしれない。読んでいくと、田中は本を書く用意をずいぶん前からしていたのではないかという印象をもつようになった。
どんどん読み進めているとその感触は一層強くなった。「兜町の帝王」小谷光浩、「コスモポリタングループ」を率いた池田保次、末野興産の末野謙一、石川さゆりパトロンで名をはせた、アイワグループの種子田益夫など、バブル紳士の生態を描くくだりは、親交のあった田中ならでは臨場感が横溢している。とりわけ「拓銀を潰した男」、中岡信栄の行状は圧巻で、ゴルフにくりだす際はゲスト20〜30人引き連れて、クラブハウス併設のゴルフ用具ショップの品物全部買い切り、振る舞うというような狂った放蕩っぷりとそんな中岡マネーに群がる政治家、芸能人の醜態が暴露されている。
こうした細部の描写は田中が当時のことを書き留めていた賜物だと確信する。
十中八九、田中は本を書くことを企ていたのだ。そして「反転」は書かれた。ただ、出版の動機は当時のそれと違ったかもしれないが。
ビートたけし主演で映画化をのぞむ。


反転―闇社会の守護神と呼ばれて
反転―闇社会の守護神と呼ばれて田中 森一

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