○ナマ義男はやっぱり真顔で冗談をいう人だった。成瀬巳喜男監督「女が階段を上る時」、一見華やかな世界に生きる女の胸の内。


先日、西麻布のRainy Day Bookstore & Cafeの催し「片岡義男×小西康陽 大人の音楽談義」に参加した。動いている義男を間近で拝見するのはコレが初めて。
義男と小西がかわりばんこにレコードをかけながら、おしゃべりするというこの企画も通算六回になるのだとか。今回は「コーラスを聴くイグアナ」と題し、「コーラスもの」というしばりをもうけてやっていた。ナマ義男は案外若い感じ。また多少うさん臭さがあった。
「うさん臭い」」というのは普通ほめ言葉でないけど、俺がナマ義男に感じたそれはちょっと違っていて年季の入った茶目っ気、みたなもの。うなぎ屋に秘伝のタレ壷とかあるが、片岡義男に漂うチャーミングさはああいう壷で熟成された感があった。
小西選曲のChordettesのやつ(曲名わからず)がよかった。あと、小西がコレが今日のメインだと紹介した、ダークダックスのパリ録音のEP曲(たぶん「愛のメルヘン」)は変だったな。
新刊「映画の中の昭和30年代―成瀬巳喜男が描いたあの時代と生活」のことを小西にふれられて義男が、今回はテレビの画面のまえに一眼カメラをすえ、そのファインダー越しに映画を観賞したというエピソードを真顔で語っていた。場内やや笑いもおこったが、多くの客はきょとんとしていた。相方の小西も唖然としていた。いやー、ナマ義男を堪能したすばらしい晩だった。大満足。
昨日は成瀬巳喜男監督「女が階段を上る時」を観た。むろん義男の新刊を読むための準備。
夜の銀座、雇われママ稼業のしんどさと恋のゆくえを描いた佳作。高峰秀子は整っているが魚顔で、すべてその魚顔を中心に組み立てられた映画だった。
高峰の店をやめ自分の店を構える新進のママ、ユリ役の淡路恵子は尖った感じで、高峰と対照的。
三十という年齢、ホントこんな仕事向いてない、という将来へ対する漠然とした不安を、成瀬は高峰の魚顔で凝縮的に語っているのだと了解した。
魚顔っていうのは夜の女顔でないという意味で他意はない。昼間、公衆電話ボックスからマネージャーの仲代達也を呼び出すシーンの高峰の笑顔は、彼女本来の魅力炸裂ってあんばいだろう。この笑顔があって、エンディング営業スマイルがキマるわけだ。ナイス演出!
若い仲代もイイが、プレス工場の社長役の加東大介が絶品。夜の大人なムードを好アシストした黛敏郎の音楽もいい感じ。


映画の中の昭和30年代―成瀬巳喜男が描いたあの時代と生活
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