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宇月原晴明聚楽―太閤の錬金窟(グロッタ) 」
(新潮文庫 ISBN:9784101309323)


「教会の連中は堕落してるゾ!」
ルターによってなされたムーブメント・宗教改革は欧州の辺境ドイツで生まれた。このムーブメントは祭りに終わらず各地にひろがり、やがて宗教的イニシアチブを教会側から奪い、分派プロテスタントを形成するにいたった。
15世紀なかば、スペイン・ポルトガル両国は航海技術の飛躍的発展と海賊顔負けの野心を胸に植民地開発に乗り出した。いわゆる大航海時代というやつで、この国家プロジェクトに、宣教師を派遣しお墨付きを与えたのが宗教改革以降ジリ貧なカトリック教会だった。
海外に派遣された宣教師の任務は崇高である同時に下世話でもあった。欧州での宗徒離れを新天地で取り返すのが目的なのだから。
さて、宣教師たちはさまざまなブンブツをたずさえ来航した。金平糖やカステラ、ワイン、あるは鉄砲、ガラス、望遠鏡等など。これらの品々は日本の権力者と謁見した際、その気を惹くための小道具だった。
でもしかし、果たして食い物や武器のたぐいのみが舶来したのだろうか?あるいは、これ以前に南蛮との接触はなかったのか?
「信長―あるいは戴冠せるアンドロギュヌス」とその続編「聚楽―太閤の錬金窟(グロッタ) 」からかいまみれる宇月原晴明の歴史解釈的な着想がそれだ。
「信長―あるいは〜」において、宇月原は牛頭天王というその来歴の分からない神像のなぞに迫り、「聚楽―太閤の錬金窟(グロッタ) 」で、金ぴか桃山文化グノーシス錬金術の関連性について大法螺をふいてみせた。
奇想天外だ!!作者の妄想の翼に圧倒される。
ただ奇想天外をハチャメチャと思ってもらっては困る。宇月原ワールドのなかで、もっと異彩を放っているのは実は徳川家康だった。家康は怪異になじみ薄い。信じないというのではない。霊感がないのだ。けれど、そうであっても怪異は炸裂する。だから家康は良く謂われるような「狸」ではなくて、運命的に「狸」を担わされたに過ぎないわけだ。


聚楽―太閤の錬金窟(グロッタ) (新潮文庫)
聚楽―太閤の錬金窟(グロッタ) (新潮文庫)宇月原 晴明

新潮社 2005-09
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