エルモア・レナード「身元不明者89号」読了
(東京創元推理文庫 ISBN:9784488241032)


先日友人のクサタヲから電話があった。本業の画仕事の男だが、それとは別のもうひとつの顔がある。
コント作家。
ま、ホントにそれが銭になってるかどうはわからん。俺は以前身銭を切ってわざわざヤツ台本・演出のコントを二度ほど見たが、案外笑った。ま、腐れ縁の腐れ仲間なので、どっか腐った笑いのツボが似ているのだろう。
ま、たいした才能ではないかもしれないが、うっちゃっておくには忍びない才能じゃないかと思っている。
だから俺は、ヤツがコント作家としても脚光を浴びなくてもイイからそこそこに活躍できたらよいな、と思っている。むろんヤツにそんなことは面と向かって言ったことはないけれど。

電話の内容。かいつまんで言うと、どうや奴さん、コント・メソッドで壁にぶち当たったようだ。
そんなこんなでクサタヲといろいろしゃべった。電話を終えてからもいろいろ考えた。俺なりにコントや芝居の「いろは」ってやつを。
やっぱ会話だ。
まず会話が肝だと思った。
コントや芝居において、会話はハナシを進める原動力でもあるし、話手たちの性格を描く素材でもある。だから、会話のやりとりで観客を笑わせたり、引き込めたりできれば、十中八九そのコントや芝居は成功だ。
会話が肝。むろんそれはコントや芝居に限ったことじゃない。映画、テレビドラマ、漫才、演者が複数いるジャンルは会話の妙はおろそかにできない。いや、会話を根本におくべきだ。
そんなことをつらつら考えていたとき、本屋でエルモア・レナードの新刊が目に留まった。
エルモア・レナード
タランティーノに代表されるサイキンの映画のつくり手は、大概このオッサンのファンだと思って間違いない。彼らがこぞって真似するガラガラポン!のハナシの展開はとどのつまり会話を基礎にしている。
そう、レナードのオッサンは、分かってる。ヤツは外さない、会話こそ、ハナシを転がす原動力というセオリーを。
そんなこんなで「身元不明者89号」を手にとった。
ジャック・C・ライアンは令状送達人。裁判所の書類を、指定された相手に渡す仕事。
渡すのが誰で、そいつがどんな問題を抱えていようが、そんなとは、配達人には関係ない。この関係ないという点、ライアンはいたく気に入っていた。気に入ったのはライアンだけでなかった。令状送達という仕事側もライアンを気に入った。そう、彼はその道において、裁判所や弁護士事務所から一目おかれる存在となった。
そんなライアンに、ある男を探してくれというシゴトが舞い込む。腕を買われたのだ。
ちょっとした小遣い稼ぎで請けた男を探す仕事。だが、それがミスだった。ライアンは「探すだけ」の一線を越え、男その背景に飲まれていく。
70年代の作らしい。ハナシがどう転がるかという展開のハラハラは少ない。あまりに都合がいい感もしないでもない。けれど、俺の読む眼目はそんな枝葉じゃない。と言っても、ここで会話をまんま引用するのも芸がない。ただこれだけは報告しておきたい。ハナシも佳境 に入ったとこで、メチャメチャよいシーンがある。ライアンと彼といい仲の弁護士事務所の女秘書とのやり取りが、それ!
好きな男が別の女のもとへ走ろうといている。しかも、その男がよりにもよってこのアタシに頼みごとをしている。その女を助けるために!
そんな状況で女秘書はどんな決断をし、どんな言葉を投げかけるだろう?
やっぱ、オッサンは外さない。エルモア・レナードは会話の天才だ!


身元不明者89号 (創元推理文庫 M レ 2-3)
身元不明者89号 (創元推理文庫 M レ 2-3)エルモア・レナード 田口 俊樹

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