横山秀夫クライマーズハイ」読了
(文春文庫 ISBN:4167659034)


ありていに言えば、新聞社版<踊る大走査線>だが、実際の日航機墜落事故をモチーフに、元新聞記者の横山が、新聞報道にとってのキモとはなにか?に迫った渾身の一作といったほうがすわりはイイかもしれない。
タイトルでもあるクライマーズハイとは、登山家が登山中、極度にてんぱった状態から恐怖感が麻痺することをいうようだ。作者は、デカいヤマ(事件・事故)にぶちアタッたときの記者のブンヤ魂の昂ぶり、または一大スクープをモノにものにするかもしれないというときの記者の高揚はある種のクライマーズハイであると言いたいようだ。
墜落事故全権デスクに任じられた主人公悠木。彼が闘わなくてはならないのは、大久保清連続殺人事件、浅間山荘の両事件のヤマを踏んだ記者で今の上層部たち。保身、かつての栄光、派閥政治のアレコレが不条理なまでに悠木の前に立ちはだかる。しかし敵は彼らだけではない。
御巣鷹山に登る<クライマーズハイ>な現場記者たちもまた、悠木が信じる報道のありようにとって、敵なのだ。かといって悠木が完璧に報道のキモの守護者というわけでもない。彼のなかにも迷いがある。
新聞の使命とは何か?ジャーナリズムにとって正気とは何か?悠木の葛藤を描くことで、横山はブンヤもいたって普通の人間なのだと言いたかったのか。
解説の後藤正治は、横山の巧さを手放し褒めまくっているが、そうは思わない。むしろ小説としては多少壊れ気味だ。その破綻っぷりが奇妙な熱っぽさを帯びている。
下山事件ロッキード事件、オウムサリン事件、また本作のモチーフである日航機墜落事故。我々新聞読者もややもすればデカい事件・事故の報道に目を奪われがちだ。別の言い方をすれば、大事故や大事件はなぜ人を惹きつけるのだろうか。誤解をおそれずに言えば、我々新聞読者はデカい事故や事件に淫しているのではないか?
読者もまた<クライマーズハイ>と無縁でない。それが横山が本作に込めたメッセージと思った。表紙カバーイラストの松尾たいこもナイス。


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