棟方志功「板極道」読了
(中公文庫 ISBN:4122002915)

棟方は、民藝の大先生柳宗悦によって見いだされた。棟方もこれには大層恩義を感じたらしく、柳をはじめ民藝連中には一貫してリスペクトの姿勢で臨んだ。 リスペクトと今言ったが、棟方芸術は、のっぴきならない女性崇拝を霊感泉としていた。民藝に感化され、作品テーマに仏教色が噴射しだしてからも、棟方の女へ対するリスペクトは揺るがなかったし、むしろ仏教的知恵がいい塩梅に作用した。
柳は、本州北端の青森出身の棟方に、無垢な原日本人のイメージを見たフシがある。しかし、これは柳の独り合点だった。
上京以前の棟方は、すでにゴッホに私淑する版画家の卵で、彼の生活は創作活動中心に組まれていた。東京行きの決断も、基本その延長で、喰える芸術家になる!という野心にそれがより近道だと考えたからにほかならない。職業画家になること、棟方は己の夢に忠実かつ合理的にアプローチした。
棟方が無垢だったとすれば、芸術で身を立てたい!という信念をなんの迷いもなく胸にたぎらせていた点だろう。その意味で、棟方は明治・大正期に出現した、立身出世主義の当時典型的な青年だった。
柳が夢みる民藝的職工気質ははすでに東北地方のみならず全国的に衰退し、代わって中央に打って出、ヒト山あてようという野心が津々浦々に拡大していた。
棟方の柳へ示した感謝は、民藝イデオロギー感化のためではなく、柳が棟方の立身出世に糸口をつけたためだった。
結局、柳は棟方を飼い馴らすことに失敗した。棟方は民藝理屈すら自己流に咀嚼し、独特無比の棟方ワールドを切り開くに至った。


板極道
板極道棟方 志功

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